イーネは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の盾斧を除かなければならぬと決意した。
イーネには政治がわからぬ。イーネは、民間軍事会社ヴィクトリアの戦闘ドロイドである。
槌を持ち、ハイエナと遊んで暮して来た。けれどもシールドブレイクに対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明イーネはベンジスを出発し、野を越え山越え、十里はなれた此のミラポリスの市にやって来た。
イーネには水も、食事も無い。必要も無い。十六の、素敵な武器と一人暮しだ。
この武器には、ハガードの或る律気な執行人を、近々、戦闘データとして迎える事になっていた。
移行式も間近なのである。
イーネは、それゆえ、武器の衣装やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。
先ず、その品々を買い集め、それから都の大路をぶらぶら歩いた。
イーネには竹馬の友があった。ココリンティウスである。今は此のミラポリスの市で、医師をしている。
その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。
歩いているうちにイーネは、まちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。
もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんきなイーネも、だんだん不安になって来た。
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、二年まえに此の市に来たときは、夜でも皆が歌をうたって、まちは賑やかであった筈はずだが、と質問した。
若い衆は、首を振って答えなかった。しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
老爺は答えなかった。イーネは両手で老爺のからだをゆすぶって質問を重ねた。
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「盾斧は空を飛びます」