7兆円買収の裏にひそむ「武田3代」の執念

(前略)ミレニアム買収でグローバルがん分野へ進化を実現した長谷川氏。周囲はこれで一段落と考えたが、本人はまだ不満だった。そして11年、もう一つの巨額買収に動く。アフリカなどの新興国に販売網を持つスイスの製薬会社ナイコメッドだ。

「いまの武田にとって最大のリスクは、変わらないことや」

ナイコメッド買収の資金は1兆円を超えた。公表後にはミレニアム以上に「高値づかみ」と批判が集まった。記者が長谷川氏と一対一になった際に、リスクを負って再び買収を決めた真意を聞いたところ、返ってきた言葉がこれだ。「変わらないリスク」とは何か。

当時は収益のほとんどを日米欧の先進国で稼いでいた。各国では高齢化や国家財政の悪化に伴い、高額な新薬が承認されにくくなる傾向が急速に強まっていた。人口拡大が続く新興国に足場を築かなければ武田の成長は行き詰まる。それが長谷川氏の危機感だった。

しかし結果的には新興国市場の開拓は進んでいない。現在も主要な収益源は日米欧だ。武田グループの先陣であるナイコメッドとの意思疎通が円滑に進まず、新興国の開拓が思うように実現しない。
長谷川氏の「誤算」が、英製薬大手グラクソ・スミスクライン幹部だったウェバー氏を呼び寄せ、社長職を譲る異例の決断の呼び水となる。

「我々にはまだ、買収した企業を日本から統治するほどの力量がない。そして私のグローバルマーケティングの感覚は、もう古い」

13年11月に社長交代を発表した翌日、東京本社ビルで単独取材に応じた長谷川氏は本音を漏らした。世界で難病に挑むという国男氏から受け取ったバトンを渡す相手は社内の人材ではなく、グローバル経営の経験を持つ外国人役員しかいない。苦渋の決断だった。

シャイアー買収の構想が市場に伝わると武田の株価は下落した。ウェバー氏は市場の厳しい反応を受けながら、最終ランナーとして走り出した。買収が実現すれば武田は世界大手の一角を占めるが、財務体質は大幅に悪化する。融合効果に不透明な面もある。

ウェバー氏の大勝負は武田が世界に飛躍する一手となるか。衰退への第一歩になってしまうのか。9年前の国男氏の言葉を改めて思い出す。

「他社を買収して規模を大きくしておいて、うまくいかなかったら社員の首を切るような会社には、武田はなってほしくないですなあ」

(企業報道部次長 村松進)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30238580Z00C18A5X11000/