時価総額で武田超えの中外製薬 外の力取り込み成長

製薬各社が新薬創出に苦しむなか、中外製薬の躍進が際立っている。主力のリウマチ薬は年間売上高約2000億円の大型薬に成長。血友病や抗がん剤の新薬も市場の評価が高い。
時価総額は4兆円を超え、国内トップに立つ。その経営戦略を解剖すると、スイスのロシュ傘下での安定した経営基盤に加え、オープンイノベーションの徹底が見てとれる。

2024年の世界売上高は44億ドル(約5000億円)――。英調査会社エバリュエートの予想が実現すれば、国内最大級のブロックバスター(売上高10億ドル超の大型薬)になる。5月に国内で発売された中外製薬の血友病治療薬「ヘムライブラ」だ。
既存薬に比べて投与頻度が少なく患者負担が減るため、シェア奪取が予想される。中外製薬は6月、時価総額で武田薬品工業を上回った。

「オープンイノベーションから生まれた成果だ」。ヘムライブラの研究開発を主導した服部有宏参与は強調する。奈良県立医科大学との共同研究で開発に拍車がかかった。中外製薬の抗体技術と同大学の治療経験を持ち寄り、約4万の抗体から候補を絞り込んだ。
現在の主力製品、リウマチ薬「アクテムラ」も外部連携のたまもの。大阪大学や英国医学研究会議(MRC)などと共同研究を展開し、05年に国産で初めての抗体医薬品を世に送り出した。

■人材面でも成果

自前主義にこだわらず外部の資源を積極的に活用する――。それは武田薬品などに比べて規模で見劣りする中外製薬が選んだ、生きのびるすべだといえる。その最たるものが02年、ロシュから過半の出資を受け入れたことだろう。

「ロシュのライブラリーが役立った」。アクテムラに続くブロックバスター候補として期待が高まる抗がん剤「アレセンサ」について、研究部門を率いる岡部尚文上席執行役員はこう述べる。
研究開発費は中外製薬単独では1000億円弱だが、ロシュグループ全体では1兆円超だ。アレセンサはバイオ創薬ではなく化学合成で生まれたが、ロシュが蓄積してきた200万を超す化合物のリストを参照したことで「規模の原理が物を言った」(岡部氏)。

ロシュ効果は様々な場面に表れている。角田浩行創薬基盤研究部長は「ロシュ傘下で世界を知った」。最先端の技術トレンドなどを共有し、目指す方向を見極めた。
人材でも結果が出ている。グローバル化と事業拡大で志願者が増えた。「優秀なだけでなく、『こいつは面白そう』という人材も採用できるようになった」(角田氏)。

そもそもロシュ傘下となったのは「化学合成からバイオへ」という創薬の潮目の変化を感じたためだ。創業家の娘婿である当時の永山治社長(現会長)が決断した。バイオ医薬品の研究開発には金がかかる。
ロシュの後ろ盾によって、費用がかさむ海外の臨床試験(治験)や販売はロシュに任せ、中外は革新的な研究に注力する体制ができた。新薬が出るまでは、ロシュ製品を国内で開発・販売してしのぐやり方も可能になった。

ロシュは研究開発で中外製薬の自主性を認めている。「ロシュは『同じバイオでも違う文化で違う研究をすると違う製品が出る』という考え」(岡部氏)。ロシュと中外製薬は最低限の情報交換はするが、創薬の核心部分は共有していない。

18年に最高経営責任者(CEO)職を永山会長から引き継いだ小坂達朗社長は「イノベーションを続けられるよう経営が後押しする」と述べ、オープン戦略を加速している。大阪大学とは免疫領域で包括的な共同研究に着手。27年までに100億円を拠出する。

世界中から研究者が集まるシンガポールに設けた抗体医薬品の研究拠点には18年に追加投資を決めた。21年までに計画する約390億円に加え、26年までに約230億円を投じ、最先端のトレンドをつかむ。
人工知能(AI)開発スタートアップのプリファード・ネットワークス(東京・千代田)と資本業務提携も結び、創薬へのAIの応用を検討していく。