■新薬開発は自動的に可能にはならない

加えて、武田が飛び付いたシャイアーにしろ、パイプライン(新薬候補)で見るとフェーズ3で15のプログラムを有し、武田とは対照的に豊富な印象を受けるが、その多くは繰り返された他社の買収によって得たもので、同社オリジナルの研究開発力の賜物ではない。
要するに、「買収で年間4000億円以上の研究開発投資が可能」となったとしても、それによって合併後の会社の命運を決する新薬開発が自動的に「可能」となるわけではないのだ。

第一、額だけ膨れ上がれば、武田は「失われた10年間」から即脱却し、起死回生となるような新薬を手に入れることができるほど研究開発の体制は万全なのか。
鳴り物入りで建設された「東洋一」の湘南研究所は今や3分の2近くの研究員がリストラで追われ、代わって32もの企業や研究所に母屋を貸しているという有様。
ウェバーが仲間入りしたかったメガファーマの世界で、いったい自社の研究拠点をこのように扱っている企業があるのだろうか。

ウェバーを後釜に据えた、あの長谷川閑史(現・相談役)が実権を握るまで、武田は良くも悪くも家族主義的な社風を残し、研究開発部門も大らかな気風に満ちていたと語り継がれている。
武田の黄金時代を支えたブロックバスター(年商1000億円以上の新薬)の抗潰瘍薬「タケプロン」や高血圧薬「ブロプレス」、糖尿病薬「アクトス」、前立腺がん薬「リュープリン」といった製品は、そうした武田の企業風土と無縁に誕生したのではないだろう。
案外、「グローバル経営」という名の下にそうした社風を破壊し尽くし、今や外資でもないのに社長以下20人いる「タケダ・エグゼクティブチーム」のうち
たった4人しか日本人がいないという奇怪な会社になる道筋を敷いた長谷川が、1兆円近くを投じながら新薬開発に完敗したのも必然だったのかも知れない。

こうなると長谷川は、2006年に東芝の相談役として「ウエスチングハウス」の買収を推進したため7000億円の損失を出し、同社の実質解体を招いたのみならず、
15年には日本郵政の社長としてオーストラリアの物流会社「トール・ホールディングス」を6200億円で買収して大失敗した、同じ「国際派」の西室泰三とイメージがだぶってこなくもない。
ウェバーによるシャイアー買収も、長谷川の「グローバル経営」路線の延長にあるのは疑いないからだ。

今や武田は、かつて他社が羨むような優秀な人材が「英語が不得手」という理由だけで隅に追いやられ、出世コースも外国人や外資から途中入社した「国際派」に牛耳られるまでになったという。
このままだと合併後の新会社は、シャイアーの有効薬の特許が切れる数年後に大きな試練が必ず訪れざるを得まいが、その時、会社のために乗り切ろうとする社内のモチベーションは、いかほどのものとなっているのか。

今さら「タケダイズム」でもないが、そこには「不屈」という語が掲げられている。概して高給と待遇の良さを最優先して転職を重ねる「新社員」達は、「不屈」などと言われてもアナクロニズムでしかなかろう。
長谷川閑史がイメージではなく実態的に第2の西室泰三となった時、「タケダ・エグゼクティブチーム」には何人の外国人が残っているだろうか。

http://www.medical-confidential.com/2019/04/03/post-8988/