高額薬に「挑戦状」 ペプチドリームに製薬大手が列

白血病治療薬「キムリア」など、1回数千万円かかる高額薬が相次いでいる。この状況を逆手に、成長を続けるスタートアップがある。
アミノ酸を自在に組み合わせ、「安くてよく効く医薬品」の候補を生み出すペプチドリームだ。創薬の常識を一変させる可能性を持ち、世界の製薬大手が提携を求めて列をなす。

白衣の研究員が小さなチューブに試薬を入れ、待つことおよそ1時間。新薬の材料になり得る「特殊ペプチド」が1兆種類ほど完成した。

この製造技術で世界の先頭を走るのが、2006年創業のペプチドリームだ。スイスのノバルティスや英アストラゼネカなどから共同研究の声がかかり、19社と新薬開発に取り組む。5月24日時点の株式時価総額は約6600億円に達する。

製薬大手と株式市場が熱い視線を送る理由は明白だ。医薬品の価格高騰に歯止めをかける潜在力を、同社の特殊ペプチドは持っているからだ。

14年に登場したがん免疫治療薬「オプジーボ」は当初、100ミリグラム73万円という価格がついた。年5万人に使えば、費用が総額1兆7500億円になるとの試算が出て、薬価制度を見直すきっかけとなった。
今年5月に決まった白血病治療薬「キムリア」の薬価は、1回の投与で3349万円。こうした高額薬が増えれば、医療財政を圧迫しかねない。

新薬の材料となる候補物質を発見し、人への臨床試験(治験)に至るまで10年以上かかることもある。開発コストを回収するには、薬の価格を高くせざるを得ない。

ペプチドリームが注目される理由はこれだ。「当社の技術を使えば、安くてよく効く薬剤を素早く製造できる。抗体薬の生産コストは10分の1以下になる」と、リード・パトリック社長は話す。社名の通り、ペプチドには「夢」があるわけだ。

ペプチドはタンパク質の断片で、アミノ酸が結合したもの。糖尿病治療に使われるインスリンもその一種だ。
通常のペプチドは口から摂取すると消化されてしまうが、同社が特許を持つ特殊な物質を使うと、体内で分解されにくく、病気の原因になるタンパク質にだけ強力にくっつく特殊ペプチドを製造できる。

医薬品はアスピリンなど化学合成でつくる「低分子」から出発した。現在の主流は、バイオ技術などを駆使する抗体医薬品などの「高分子」だ。ペプチドを使った医薬品は中間にあたる分子量を持つため「中分子」と呼ばれ、第3の創薬手法として注目を集める。

理由は高分子と低分子の「いいとこ取り」ができるから。がん細胞などの標的を狙い撃ちできる高分子並みの薬効を持ちつつ、化学合成で安価に大量生産できる。中でもペプチド医薬品は汎用性が高く、コストも低減できると期待されている。

今後は中分子医薬品が抗体医薬などの高分子領域を置き換え、数十兆円の巨大市場に成長することが確実視されている。英グラクソ・スミスクラインや仏サノフィなどは次世代薬として研究開発を強化し、国内では塩野義製薬が新薬開発に中分子技術を全面的に導入すると表明した。
スイス・ロシュ傘下の中外製薬も静岡に中分子の原薬工場を新設する。

だが名だたる製薬大手も、材料開発ではペプチドリームに頼らざるを得ない。「大手製薬会社が持つ新薬候補物質は500万種程度」(パトリック社長)だが、ペプチドリームは単純計算で20万倍となる1兆種類の候補を1時間で作れる。
膨大な種類の中から有望な候補を見つける解析技術も強みだ。通常1〜2年かかる作業を、ペプチドリームのシステムを使えば1〜4カ月でできるという。従来の手法では発見できなかった化合物を探せ、創薬期間も短縮できるからこそ、世界の製薬大手が殺到する。

ビジネスモデルも独特だ。ペプチドリームが製薬企業に材料を提供し、研究開発のステージが進むごとに成果報酬を受け取る。技術ライセンスの提供などで安定的に収益を稼げることが奏功し、18年6月期まで8期連続で最終黒字を計上している。
19年6月期の売上高は72億円以上となり、最高益を更新する見込み。国内のバイオベンチャーの多くが赤字に苦しむ中で、異例の存在になっている。