研究を自動化、技術開発速く AI自ら仮説・検証

生命科学や材料開発の分野で、「仮説を立て、実験を通じて検証する」という研究者の作業を人工知能(AI)やロボットに置き換える試みが進んでいる。研究のプロセスを全て自動化し、従来は難しかった発見や技術の開発速度の向上につなげる発想だ。
実現すれば、研究のあり方が大きく変わる可能性がある。

科学研究は研究者がまず仮説を立て、実験や観測を通じて正しさを検証・考察し、得られた知見から新たな仮説を導き出して再び実験するという作業の繰り返しだ。例えば創薬分野では無数の物質の中から新薬の候補を絞り込み、画期的な薬の開発に結びつけてきた。

理化学研究所と産業技術総合研究所はこうした作業をAIとロボットで置き換え、生命科学の研究を全自動化するプロジェクトを立ち上げる。自ら仮説や実験計画を立て、結果も予測するAIを活用する。
仮説が合っているかどうかは産総研の人型双腕ロボット「まほろ」による実験や、公開されたデータベースを使い確かめる。これを繰り返すことで精度を上げ、新たな知見を導く。

2020年8月をめどに、国内に両研究所の研究者ら100人程度が常駐する拠点を設立する計画だ。がん治療薬の開発やiPS細胞の応用など複数の研究課題に取り組む。理研の高橋恒一チームリーダーは「目標はノーベル賞級の成果を生み出すことだ」と話す。

AIやロボットの活用は人間では気づかない新たな発見のほかに、開発速度の飛躍的な向上につながる可能性を秘める。

NECは実際の実験とAIやシミュレーション(模擬実験)を組み合わせ、温度差を利用して電力を生み出す「熱電変換材料」の新たな素子の研究で変換効率を5年で10万倍に高めた。
ロボットなどを使った全自動化も視野に入れており、石田真彦主幹研究員は「人間が地道にやってきたことよりも広大な世界が見えるようになる」と新たな発見に期待する。

材料開発にIT(情報技術)を取り入れる手法は、青色発光ダイオード(LED)の発明でノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授も省エネ半導体の研究に活用する。原料となるガリウムや窒素原子の振る舞いを実験で明らかにし、AIに学ばせる。

今後、実際の実験をシミュレーションなどに置き換えて自動化を進めていく予定だ。天野教授は青色LEDの開発時、1500回も失敗を重ねながら実験を続けたという逸話を持つが、自動化が進めば1000回の実験が数回で済むといったことが可能になるとみる。

研究を自動化する試みは、英マンチェスター大学のロス・キング教授の試みが知られる。09年にAIによる仮説立案からロボットによる実験までを実現するシステムを開発した。同大は、理研と産総研のプロジェクトにも協力する計画だ。

米国と中国も、多額の資金を投じて生命科学や材料開発にITを活用する。研究の「自動化」は世界的に加速する見込みで、研究現場のあり方を大きく変えそうだ。

研究者は的確な研究課題を設定し、AIなどを使いこなせるかが問われるようになるとみられる。日本の研究者は実験などの地道な積み重ねを強みとしてきたが、積極的に新技術を取り込む発想も求められる。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45516110R30C19A5TJM000/?n_cid=DSTPCS001