香山リカのココロの万華鏡
現代の「腹ふくるるわざ」 /東京
毎日新聞 2017年6月13日 地方版


 最近、診察室で「おなかが痛い」という人によく会う。「えっ、精神科に腹痛の人が来るの?」と不思議に思うかもしれないが、内科などで検査をしてもどこにも異常が見つからないが、キリキリ、ジワジワとおなかの痛みが続く、というケースはけっこうある。そういう人が内科医から「ストレスかもしれないのでメンタル科を受診しては」と勧められてやって来るのだ。

 おなかとこころは、けっこう関係しているのだ。しかも、それは昔から知られていたようでもある。鎌倉時代の名随筆家、吉田兼好の『徒然草』に「おぼしきこと言わぬは腹ふくるるわざ」という言葉が出てくる。「思っていることを言わないでいると、おなかが張ってくるような感じになる」という意味だ。

 もちろんこれはたとえ話で、本当におなかが膨らんだり痛くなったりする、ということではない。ただ兼好法師は自分自身でも、「言いたいのにものを言えずにストレスがたまると、おなかがモヤモヤしてくるなあ」と感じていたのではないだろうか。もちろん、この時代には「ストレス」などという単語はなかったのだが。

 さて、現代の「腹ふくるるわざ」で悩む人はどうだろう。「何かストレスはありますか?」と聞くと、意外なことに「さあ」と首をひねったり「とくにありません」と答えたりすることが多い。
実はこの人たちにはストレスがないのではなく、「怒りや迷いなんて感じちゃいけないんだ」「疲れたと思ったら負けだ」などと“こころの声”に目を向けないようにしているのだ。「ほかの人はもっと頑張ってるんです」「私がすべて悪いんです」と他人と比べて自分を責めるようなことを言う人もいる。

 しかし、いろいろ質問をしていく中で、その人たちは自分の限界を超えて仕事や育児などをやりすぎ、身もこころもヘトヘトになっていることが分かってくる。そして、それに自分でも気づき、「私は疲れていたんですね」
「不満がたまってました」と言えるようになってくると、不思議なことにおなかの痛みもやわらいでくることが多い。腹痛やおなかのはりは、自分がストレスでピンチに陥っているというメッセージを、言葉に代わって伝えようとしていたのだ。

 からだに異常がないのに腹痛や便秘、おなかのはりが続く。そういう人は、自分のこころにそっときいてみてほしい。「ホントは何か言いたいことがあるんじゃないの?」(精神科医)

https://mainichi.jp/articles/20170613/ddl/k13/070/096000c

スレタイ参考
https://twitter.com/mainichi/status/874473918039445504