【産経抄】犯罪評論家もお手上げの猟奇殺人 11月2日


 劇作家の別役実さんは、かつて「犯罪評論家」の看板も上げていた。
いつしか下ろした理由をこう語っている。「どう考えていいのか分からないような犯罪、やってる方も何となくというか、あまり深く考えていないんじゃないかって犯罪が増えてきた」。

▼「今犯罪についてコメントするのは、病理学者とか心理学者です」。
いや、どんな分野の専門家の話を聞いても、さっぱり要領を得ない。
神奈川県座間市のアパートで、9人の切断遺体が見つかった事件である。

▼遺体は男性1人、女性8人、10代の少女も含まれている。
死体遺棄容疑で逮捕された白石隆浩容疑者(27)は、9人を自宅に連れ込んで殺害したと、警察に供述した。
女性8人とはツイッターで知り合い、自殺を手伝うと伝えていた。

▼わずか2カ月で、なぜこれほど多くの命を奪わなければならなかったのか。
「乱暴と金銭が目的」と話しているが、わずか500円を奪っただけの犯行もあった。
遺体の扱い方も尋常ではない。
自宅の浴室でバラバラにして、頭部と腕や脚とみられる骨をクーラーボックスに隠していた。

▼本を読んでいると、ページに張り付いた蚊に出会うことがある。
3年前104歳の天寿を全うした詩人のまど・みちおさんは、そんな小さな死も見逃さない。
「とある かつじを ひとつ うえきばちに して カよ」「花に なって さいている」。
『いわずにおれない』(集英社be文庫)に、「カ」と題して収められている。

▼本のなかでつぶされた蚊さえ、懇ろに弔わずにはいられない詩人がいた。
そうかと思えば、自ら手にかけた若者の亡きがらのそばで、平然と暮らし続ける男がいる。
人間とは、と改めて問いただしたくなる事件である。