産経抄 1月8日

 パリで車を止めたところは、駐車禁止の場所だった。たちまち警官がやってきて怒鳴り出す。ところが、今日これから日本に帰るところだと説明すると、態度は一変する。「パリは気に入りましたか」とニコニコと話しかけてきた。歴史学者、故木村尚三郎さんの体験談である。

 ▼昭和58年に小紙に寄稿したコラムのなかで、年間3千万人もの外国人観光客を受け入れる観光大国フランスのもてなし上手に感心していた。日本も「観光立国を国是として打ち立てよ」との主張には、先見の明があった。

 ▼平成の時代は30年前の本日から始まった。当時の日本人がもし現在の日本に時間旅行ができたら、どんな感想を漏らすだろう。何より外国人観光客の多さに驚くのではないか。
元年の外国人観光客は約284万人。むしろ円高の影響もあって翌年、日本人の海外旅行者数が1千万を超えたニュースの方が話題になった。

 ▼昨年の訪日客数は史上初の3千万人を突破した。「外国人観光客は日本語がわからなければ、駅で切符が買えない。値段の安い食堂も利用できない」。
今の東京には、かつて木村さんが嘆いた閉鎖性はみじんもない。東京五輪・パラリンピックが開かれる来年、政府は4千万人の目標を立てているという。

 ▼もっとも浮かれてばかりもいられない。昨年9月に起きた地震で全域が停電した北海道では、外国人観光客は口をそろえて、日本語以外の情報提供の少なさを指摘した。先週末の大雪の影響で混乱が続いた新千歳空港でも、不安な一夜を過ごした外国人が少なくなかったはずだ。

 ▼昨日から徴収が始まった1人千円の出国税は、観光振興の財源となる。訪日客のかゆいところに手が届く、サービスの向上に使ってほしい。