産経抄 1月30日

 『罵詈(ばり)雑言辞典』を編集した奥山益朗(ますろう)さんは、前書きでぼやいている。「日本語は実に罵言の貧困な言葉だ」「ことに東京を中心とした共通語には、ロクな罵語がない」。

 ▼その点で関西は「罵言の先進国」と持ち上げるのだが、関西出身の小欄はとても喜ぶ気にならない。「殺すぞ」「このくそがき」。
昨年1月、兵庫県西宮市の当時の市長が、取材中の新聞記者を口汚くののしり、市民を唖然(あぜん)とさせたものだ。今度は明石市の泉房穂(ふさほ)市長(55)が、「暴言市長」の名乗りを上げた。

 ▼平成29年6月、道路拡幅工事に伴うビルの立ち退きが進んでいないことに、泉氏はいらだちを募らせていたようだ。担当の市幹部を市長室に呼んで厳しく叱責した。
「あほちゃうか。火付けて捕まってこい。燃やしてしまえ」。泉氏は、「早く交渉しろというつもりだった」と釈明している。とはいえ、完全なパワハラでもある暴言には、品位のかけらさえ見当たらない。

 ▼明石市といえば昨年末、刑務所を出所した人の更生支援を目的とした条例を全国で初めて制定して話題となった。弁護士資格を持つ泉氏が中心となって実現にこぎつけたものだ。「人権派」の表の顔と、聞くに堪えない罵詈雑言との落差の大きさに驚く。

 ▼クリントン元米大統領が共同執筆者に名を連ねるサスペンス小説『大統領失踪』が、日本でも話題を呼んでいる。
登場人物の一人、女性の首席補佐官の経歴が興味深い。元下院議員の彼女は、政敵を卑猥(ひわい)に表現した言葉が録音されて公開され、落選の憂き目に遭った過去を持つ。

 ▼現在2期目の泉氏は、今年4月の市長選に3選めざしてすでに出馬を表明していた。1年半前の暴言が、なぜ今になって発覚したのか。この点も大変興味深い。