産経抄 1月9日

 イランでは、被害者の視力を奪ったとして有罪判決を受けた犯人に対し、両目を失明させる刑が執行されることがある。「目には目を、歯には歯を」。
古代メソポタミアの『ハムラビ法典』に書いてあると、世界史の授業で習った。イスラム教の聖典コーランも、「命には命を…」などと報復刑を認めている。

 ▼そのイランが8日未明、米軍が駐留するイラクの空軍基地など2拠点を弾道ミサイルで攻撃した。米軍によるイラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官殺害に対する明らかな報復である。

 ▼米国にとっては「600人を超える米兵の命を奪った憎き敵」だった。イラン国内では国民的英雄である。司令官の出身地であるケルマン州で行われた葬儀には数十万人が押し寄せ、50人以上の参列者が圧死する混乱となった。
テヘランでの国葬では、棺(ひつぎ)の前で涙を流す最高指導者ハメネイ師の姿が放映された。

 ▼3日間の服喪があけた直後のイランの武力攻撃は、当然予想されていた。ただ、イラン当局としては、世界最強の軍事力を誇る米国との決定的な対立は、避けたいのが本音とみられる。
今回の米軍基地への攻撃も、米兵の被害をできるだけ避ける限定的なものだった、と専門家は指摘する。

 ▼『ハムラビ法典』は、無制限の報復を認めているわけではない。『コーラン』にも「報復を控えて許すなら、それは自分の罪の償いとなる」と免罪を促す記述もある。冒頭に紹介した裁判でも、被害者側の意向で、減刑される例もあった。

 ▼トランプ政権もまた、報復の連鎖の果てに中東情勢が泥沼化する事態を望んではいまい。トランプ大統領は、どんな落としどころを用意しているのか。国際社会は固唾をのんで見守っている。