文献に残っている限り、日本で最初に収賄の疑いをかけられた政治家は、大伴金村という人物である。
『日本書紀』に「大伴大連(おおむらじ)…百済(くだら)の賄(まいない)を受けたり」という記述がある。
6世紀のはじめ、朝鮮半島を舞台とするスキャンダルだった。
▼高句麗(こうくり)によって国土の北半分を失った百済が、大和朝廷の半島における拠点だった任那(みまな)
四県の割譲を求めてきた。大連という現在の首相のポストにいた大伴金村が、それを認める代わりに、巨額の
賄賂を受け取ったというのである。
▼東京地検特捜部が、自民党の秋元司衆院議員(48)を収賄容疑で逮捕した。カジノを含む統合型リゾート
施設(IR)をめぐる利権が背景にあるようだ。特捜部は、日本参入をめざしていた中国企業から秋元容疑者や
元政策秘書に数百万円の現金が渡ったとみている。今回の逮捕で、IRへの逆風が強まる事態は避けられない。
▼賄賂は明治のはじめごろまで、「まいない」と呼ばれてきた。日本の政治の歴史で、まいない、賄賂の種が
尽きたことがない。まいないには、「神への捧(ささ)げ物」という意味もある。権限を握る政治家は、神様に
祭り上げられた気分で、気楽に贈り物を受け取ってきたのだろうか。
▼特捜部による現職国会議員の逮捕は、平成22年1月の石川知裕衆院議員(当時)以来、約10年ぶりである。
戦後最大の疑獄といわれる「ロッキード事件」などを手がけた特捜部は、全国の検察庁から選(よ)りすぐりの人材を集めた
「最強の捜査機関」の名声をほしいままにした。
▼もっとも近年の証拠改竄(かいざん)事件により、威信は地に落ち、「廃止論」まで出た。時の政治権力に立ち向かう、
「巨悪を眠らせない」特捜部の復活は本物なのか。粘り強い緻密な捜査で、期待に応えてほしい。