産経抄 2月18日

 永世棋聖で日本将棋連盟の会長も務めた故米長邦雄さんは小学校卒業後、内弟子に入って将棋に専念した。3人の兄は東大を卒業している。「兄貴3人は頭が悪いから東大に行った。自分は頭がいいから棋士になった」。実は先輩棋士が作ったジョークだったが、米長さんの名セリフとして広まった。

 ▼言うまでもなく、将棋の世界は学歴が役に立たない。かつては進学は時間の無駄だとする風潮があって、棋士の学歴は中卒が当たり前だった。早稲田大に進んだ「ひふみん」こと加藤一二三九段は、その意味でも異色の棋士だった。

 ▼今も変わらず実力だけがものをいう社会ではあるが、大卒の棋士が珍しい存在ではなくなった。昨年は、東大の大学院生がプロ入りを果たして話題になった。そんななか飛び込んできたのが、藤井聡太棋聖(18)の高校自主退学のニュースである。

 ▼14歳2カ月の史上最年少でプロ棋士となった藤井棋聖は、王位と合わせて2冠を獲得したことで、将棋に専念したい気持ちが強くなったというのだ。その意気やよし。将棋以外の勉強は大学に行かなくても、いつからでも始められる。

 ▼そのお手本が、永世七冠など前人未到の記録を次々に達成してきた羽生善治九段である。将棋を離れても、英語を流暢(りゅうちょう)にあやつり、各界の著名人との対談の機会も多い。羽生九段も藤井棋聖と同じく都立高校に入学したものの対局のために欠席が続き、通信制高校に移った。

 ▼さまざまな境遇の人との出会いから「学びに年齢は関係ない」と感じたという。子供の不登校をテーマにした新聞のインタビューで語っていた。藤井棋聖はこれから将棋の道を究めていく。同時に人間としていかに成長するのか。それをファンは楽しみにしている。