産経抄 2月21日

 「官庁の中の官庁」と呼ばれる大蔵省(現財務省)で、財政金融の「素人」を自任する政治家が蔵相になった。就任演説がいまに伝わる。「私が田中角栄だ。尋常小学校高等科卒業である」。昭和37年の夏だった。

 ▼目の前にした官僚たちの多くは日本の最高学府、東大の門をくぐった俊秀だが、田中はお構いなしに続けたという。「トゲの多い門松をたくさんくぐってきて、いささか仕事のコツを知っている」(『田中角栄100の言葉』)。後に首相となる人の前日譚(たん)である。

 ▼官僚機構のピラミッドが田中の与えた一撃で崩れるわけもなく、東大の威光にかげりは見えない。それゆえ東大の代名詞である本郷キャンパス(東京都文京区)の「赤門」が足元に不安を抱えていたとは意外だった。診断で耐震性の低さが分かり、閉鎖されている。

 ▼加賀藩主が将軍家から妻を迎えるために、文政10(1827)年に建立した。観光客の記念撮影スポットとしても名高い、国の重要文化財である。折しも入試シーズンのさなか、受験生は正門から学内に入るため影響を受けないそうだが、気になるニュースである。

 ▼偶然にも、世上をにぎわす総務省幹部の接待問題では、事実上の更迭となった情報流通行政局長が東大卒という。狭き門をくぐるのに必要な偏差値の高さと、官僚が胸に刻むべき誇りの高さは、必ずしも比例しないらしい。霞が関もまた、足場の診断が必要だろう。

 ▼「敲(たた)いても駄目だ。独りで開けて入れ」と、夏目漱石『門』の一節にある。どこの学窓の門をくぐるかは問題ではない。何を学び、何を身につけるかは自分次第−という文豪の声が聞こえてくる。学問という「門」は、誰の前にも等しく開かれている。腰を低くしてくぐれ、と。