産経抄 12月25日

 平成10年に75歳で亡くなった宇野宗佑元首相といえば、まず就任3日後に発覚した女性スキャンダルのイメージが強い。わずか69日間の短命首相でもあった。昨日の新聞を読んで、大切な事実を思い出した。

 ▼政権発足直後の1989年6月4日には、中国政府が民主化を求める学生らを武力弾圧した天安門事件が起こっている。深刻な人権問題として、欧米諸国は一斉に非難の声を上げた。にもかかわらず、5日の所信表明では事件に一切言及していない。外務省が23日に一般公開した外交文書で、その背景がよくわかる。

 ▼すでに事件当日に、中国への制裁措置に反対する方針を明記する文書を作成していた。7月にフランスで開かれたアルシュ・サミットで採択された中国を非難する宣言の裏話も明らかになった。日本はもともと宣言自体に反対していた。

 ▼宇野首相はせめて「中国を孤立させない」との文言を入れるよう主張し、表現を和らげることに成功したという。「経済的に豊かになれば、自然に民主化が進んでいく」。政財界全体にそんなムードが広がっていた。中西輝政京都大名誉教授の表現を借りれば、あまりにナイーブ、つまり浅はかな期待だった。

 ▼共産党政権はますます強権化し、香港やウイグルでみられるように人権弾圧を強めている。日本の経済援助は、反日教育と尖閣諸島への領海侵入という形で裏切られてきた。もはや過ちを繰り返すことはないと思いたいが、気がかりは残る。

 ▼新型コロナウイルスの発生地である中国の責任を激しく追及する米国に対して、日本は押し黙ったままだ。ワシントン駐在の古森義久記者は、今も続く「日本の異端」を指摘していた(月刊『正論』7月号)。菅義偉首相の覚悟を聞きたい。