産経抄 12月23日

 「性格的に自分は政治家に向いていない」。平成12年6月、愛知8区選出の自民党衆院議員だった久野統一郎さんは、地元の会合で突然、引退を表明する。

 ▼郵政相を務めた父親の忠治さんの後継として、10年前に政界入りした2世議員だった。父子合わせて約50年間、選挙区を守ってきた。次の選挙に勝てば初入閣との期待の声もあっただけに、地元では大騒ぎとなる。そもそも「政治家に向かない」という理由で議員を引退するのは前代未聞である。

 ▼自民党の吉川貴盛元農林水産相(70)が、議員辞職した。こちらは「健康問題」というありふれた理由である。確かに吉川氏は慢性心不全などで入院治療を受けている。とはいえ、とても額面通りに受け取るわけにはいかない。

 ▼吉川氏は農水相在任中、鶏卵生産大手「アキタフーズ」元代表から、大臣室などで計500万円の現金を受け取ったとの疑惑のまっただ中にいる。昨日の小紙は関係者への取材から、現金の受領を認めていると報じていた。

 ▼スキャンダルが発覚すると病院に逃げ込む政治家をこれまでも多く見てきた。「桜を見る会」の問題では、安倍晋三前首相が東京地検特捜部の事情聴取を受けている。菅義偉首相は、もはや頬かぶりが許される段階ではないと、覚悟しているはずである。

 ▼久野さんは今年1月に82歳で亡くなった。小林照幸さんによるノンフィクション『政治家やめます。』のなかで、久野さんは議員時代、カネに関して「普通の感覚」が麻痺(まひ)していたと告白している。一方で一国の首相を「コケ」にするような政治報道にも違和感を覚えていた。ここまで来たら、叩(たた)くよりおだて上げたら、と久野さんは言うけれど、さすがにそこまでの度量は持てそうにない。