産経抄 1月30日

 これは少々まずかろう。自民党の外交部会などが26日に開いた会合で、中国による新疆ウイグル自治区での少数民族弾圧について、外務省担当者はこんな見解を示した。「ジェノサイド(民族大量虐殺)と認めたわけではない」。中国メディアは早速、日本政府の表明だと喧伝(けんでん)している。

 ▼この問題をめぐり、米国のブリンケン国務長官はトランプ前政権の認定を引き継ぎ、ジェノサイドだと認めて追及姿勢を見せている。中国にとって外務省担当者の発言は、日米を分断する格好の材料が飛び込んできたというところだろう。

 ▼在日ウイグル人でつくる日本ウイグル協会は28日、声明を発表して訴えた。「(米政府判断に)世界に先駆けて日本政府が異議を唱えることになり…」「中国政府を勇気づけ大量虐殺を更(さら)に加速させる口実を与える」。当然の憂慮である。

 ▼外務省としては、ジェノサイド条約に未加入の日本は、言葉の定義づけもしていないので、ジェノサイドという表現自体使ってこなかったということらしい。「人権状況については深刻に懸念している」。茂木敏充外相は29日の記者会見で述べたが、もはや悠長に構えている場合ではなかろう。

 ▼強制収容と強制労働、不妊手術、独自文化の廃絶に拷問、親子の引き離し…。ウイグル人らの経験談を集めた漫画家、清水ともみさんの新刊『命がけの証言』に出てくる在日ウイグル人女性の言葉が胸に突き刺さる。「ウイグル人は地獄の中に住んでいます」。

 ▼思うに、日本軍が慰安婦を強制連行しただの性奴隷にしただのといった世界の偏見と誤解がなかなか解けないのは、日本の人権意識が低いとみられているのも一因ではないか。それを払拭するためにも、人権外交にもっと注力したい。