5月19日(水)朝日新聞東京版朝刊文化面・後藤正文の朝からロック

虚しさ募るオリンピック

オリンピックの中止を望む意見や、大会の開催を危ぶむ記事を読む機会が増えた。
市民への自粛要請以外に、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むための政府の
取り組みの展望がない情勢では、「安全安心」の大会運営は難しいのではないかと
考える人が増えて当然だと思う。

アスリートのことを考えれば、簡単に中止とは言えない気持ちもわかる。競技者と
してのキャリアのなかで、体力や技術がピークを迎える時期は限られているはずだ。
そうした機会の損失を考えると胸が痛む。

しかし、アスリート・ファーストの観点から言えば、競技に適した環境とは言えない
真夏に大会が行われること自体がおかしい。放送や広告による収益など、興行としての
性質を優先してきたことを省みるべきだが、そうした声はあまり大きくないように
感じる。

無観客で行われた聖火リレーの映像は、いつの間にか膨れ上がったオリンピックの
空疎さの証であるように見えた。喜々として役割を引き受けた有名人たちが
「スケジュール調整の難しさ」を理由に続々と聖火ランナーを辞退する様には、
何とも言えない後味の悪さがある。

何よりも経済性や体面を重んじる虚しさ。そうした性質と自分の生活や音楽活動が
無縁だとは言い切れない。他人事として、無関心を貫いてきたことを恥ずかしく思う。

(ミュージシャン)