4月11日

フィリピン大統領選で、フェルディナンド・マルコス元上院議員(64)の勝利のニュースを聞いて、一枚の写真の記憶がよみがえる。

▼有名デザイナーの靴3000足の一部が写っていた。マルコス氏の母イメルダ夫人の所有である。20年以上にわたり独裁体制を敷いた父の故マルコス元大統領は、1986年のピープルパワー革命によりイメルダ夫人とハワイに亡命する。

▼主を失ったマラカニアン宮殿に入った民衆は、夫妻のぜいたくな暮らしぶりに驚いた。ほとんどの国民が貧しい生活を送るなか、夫妻の不正蓄財は100億ドルと推定される。投獄され拷問を受けた人は数知れない。マルコス氏は選挙戦を通じて、父の統治時代を美化しマイナスイメージの払拭に努めてきた。

▼何より功を奏したのが、現職のドゥテルテ大統領の路線を継承するとの訴えである。副大統領選に立候補した、ドゥテルテ氏の長女サラ氏(43)との連携もうまくいった。現政権が進めてきた麻薬撲滅作戦は、無実の市民を巻き添えにしている。それでも治安維持政策が評価されて、高支持率を維持してきた。

▼旧マルコス体制は、元大統領の政敵だったアキノ元上院議員の暗殺をきっかけに揺らぎ始めた。3年後のピープルパワー革命で、未亡人がフィリピンで初の女性大統領となる。同名の息子もまた2010年から16年まで大統領を務め、昨年亡くなった。

▼アキノ前大統領は、外交では中国に厳しい姿勢で臨んだ。南シナ海の領有権をめぐってオランダ・ハーグの仲裁裁判所に提訴して、中国の主張を否定する判決を勝ち取っている。マルコス氏は、中国に宥和(ゆうわ)的だったドゥテルテ氏に倣って、それを棚上げする可能性が高い。マルコス、アキノ両家の因縁はまだ続く。