6月11日

国際会議での首脳の発信は、日本の存在感を高め、影響力を増す絶好の機会である。同時に、その中身に対する出席者の反応で世界の潮流を読み、今後に生かすことにも役立つ。シンガポールで開催されたアジア安全保障会議で岸田文雄首相が訴えた平和へのビジョンは、どんな印象を与えただろうか。

▼8年前の平成26年5月、安倍晋三首相(当時)が基調講演を行った頃は、中国や韓国が歴史問題を持ち出して日本の主張を押さえ込もうとしていた時期だった。安倍氏が講演で中国の海洋進出を念頭に「海における法の支配を守ろう」と説くと、各国の政府・軍関係者ら約500人の聴衆から盛大な拍手が起きた。

▼講演後、中国軍関係者が質問に立ち、安倍氏の靖国神社参拝について「日本軍に殺された中国人の魂にどう説明するのか」と難じたが、会場の反応は冷ややかだった。安倍氏は後に振り返った。「日中問題に対する世界の見方、立場が事実上逆転したのを実感した」。

▼国際社会の視線を感じ取った中国の習近平国家主席は同年11月、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の北京開催に当たり、それまで拒否していた安倍氏との首脳会談を無条件で受け入れた。傍若無人に振る舞う国でも、他国の目は気になるのだろう。

▼岸田首相の言葉に話を戻すと、ロシアによるウクライナ侵略や、中国を念頭に置いた南シナ海、東シナ海での国際法無視に言及している。「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」とのメッセージも、アジア太平洋諸国に響いたのではないか。

▼ただ、自身が率いる自民党の派閥「宏池会」(岸田派)にまで触れたのは蛇足である。岸田首相は二言目には宏池会を強調するが、世界に何の関係があろうか。