6月16日

<たとへば君 ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫(さら)つて行つては呉れぬか>。歌人、河野裕子さんのあまりにも有名な恋の歌である。後に夫となる永田和宏さんを詠んだものだと、小欄は思い込んでいた。

▼実はこの歌が書かれた日記には、驚くべき記述があった。先週NHKで放映されたドラマは、平成22年に64歳で亡くなった河野さんと永田さんの青春の日々を描いていた。原作は永田さんが今年3月に刊行した『あの胸が岬のように遠かった』(新潮社)である。

▼若き日の河野さんには、もうひとり愛する男性がいた。永田さんは、研究者と歌人との両立、河野さんとの将来に悩んでいた。自殺未遂、中絶…。2人は互いを激しく求め合い、時に深く傷つけ合う。

▼そんな恋愛は面倒だという風潮なのか。14日に閣議決定された「男女共同参画白書」によれば、20代の独身男性の39・8%、独身女性の25・1%が、デートをしたことがないと回答していた。30代の独身者は、男女とも4人に1人が結婚願望がないという。経済的な不安や家事育児の負担など理由はさまざまだが、「自由でいたい」という声がもっとも多い。

▼14日付の小紙1面の「朝の詩」と「朝晴れエッセー」もまた、先立たれた配偶者への思いをつづっていた。「どこにも行かない ここに居る」。堺市の浅井千代子さん(91)は、夫の最後の言葉が生きる支えになっている。京都市の植田恵子さん(68)が悲しみに沈んでいたある日、1羽のメジロが舞い込んできた。夫らしいやり方で励ましにきた、と信じている。

▼永田夫妻の青春物語は刺激が強すぎるという若者にも、大先輩がさりげなく送ったメッセージは伝わるはずだ。結婚はそれほど悪いものじゃない。