6月19日 

 朝のひととき、高校のグラウンドに面した散歩道を歩くようになって久しい。先日は7時過ぎの空に、乾いた打球音や甲高い声が響くのを聞いた。野球部の紅白戦らしい。そろいのユニホームを着た選手らが、それぞれの持ち場できびきびとプレーしていた。 

▼「短夜(みじかよ)」は明けやすい夜を惜しむ夏の季語だが、球児たちは空に日のある時間を惜しむのだろう。弧を描く「白球」や黒土に引かれた「白線」は起き抜けの目にまぶしく、「ナイスピッチ」や「ドンマイ」の掛け声は心の清涼剤になる。許されるなら夏の季語に加えたい言葉たちである。 

▼〈みじか夜を美(くは)しと云(い)ひて惜しみつつやがて眠りにゆくばかりなる〉斎藤史(ふみ)。歳時記の一首もいまは昔、現代の「短夜」は語釈を変える必要があるかもしれない。スマートフォンなどの機器が子供の目を吸い寄せ、夜を奪っている。

▼ベネッセ教育総合研究所などの調査によると、寝る前にスマホやパソコンを見る児童・生徒ほど「疲れやすい」「昼間に眠くなる」と答える割合が高かった。動画、ゲーム、SNS。夜を惜しむというより時間を忘れているらしい。 

▼生活習慣に深く根を下ろす問題だけに、一朝一夕では片付かない。同じ調査では、テストの成績がよい子供ほど、寝る前にスマホなどの画面を見ないとの結果も出た。夜を惜しむべからず、まず眠るべし。生活に規則正しく句読点を打てる人を、どう育てていくか。大人の宿題でもある。 

▼世事に通じた子供たちに早起きの効能を説いたとて、「円安の時代に『三文』の徳を積むなんて」と身も蓋もないことを言われそうで怖い。いきなり「ナイスピッチ」「ドンマイ」は求めまい。空気を胸いっぱいに吸い込むだけでも、心に効くはずなのだが。