7月8 日

「私も栄ちゃんと呼ばれたかった」。故佐藤栄作元首相は、大衆に人気のあった政治家を偲(しの)ぶ会でこう述べたという。英国のボリス・ジョンソン首相は、愛称のボリスで通じてきた。

▼名門イートン校、オックスフォード大出身である。もっとも、ボサボサ頭でロンドン市内を自転車で走り回る姿はエリートらしくない。新聞記者時代は、捏造(ねつぞう)記事を書いて首になった経験ももつ。ロンドン市長として2015年に初来日した際、東京都内で行われたラグビーのイベントで、タックル禁止のルールにもかかわらず10歳の男の子にぶつかっていき、周囲をあきれさせた。一言で表現すれば、変人である。

▼失言や差別発言も数多い。それでも国民に愛され続けてきた。ブレグジット(欧州連合からの離脱)には、それほど思い入れがないとも指摘されるが、首相としてなんとか実現にこぎつけた。コロナ対策では、迅速なワクチン接種も成功させた。

▼長期政権の展望が開けたところで、お粗末なスキャンダルが持ち上がる。コロナ禍の行動規制下にもかかわらず、本人は官邸内でパーティーを開いていた。現職首相が警察の捜査を受けて罰金を科せられるのは前代未聞である。

▼ジョンソン氏に任命された保守党の院内副幹事長の痴漢行為が発覚して、辞職に追い込まれたのも痛かった。国民の支持を失ったジョンソン氏に対して、閣僚たちは続々と反旗を翻した。辞任はやむを得ない。

▼ジョンソン氏は、第二次世界大戦時の名宰相、チャーチルを尊敬し、自らを重ね合わせてきた。作家の塩野七生さんは、チャーチルを「不名誉なことをしながら、高貴さを維持できた」と評する。残念ながらジョンソン氏に、高貴という言葉は似合わなかった。