8月31日 コラム 産経抄

パキスタンは国土の3分の1が水浸しになるほどの大洪水にあえいでいる。中国では逆にこの夏、長江流域が記録的な干魃(かんばつ)に見舞われ、農業に甚大な被害が出ている。

▼折しも米歴史学者のE・ルトワック氏は29日付の小紙1面の記事で、中国の食料自給体制には深刻な弱点がある、と指摘していた。中国絡みの有事に際し、米国の同盟諸国は、中国に対する武力行使には二の足を踏んでも、食料禁輸なら応じられる。

▼中国は、コメ、小麦、トウモロコシといった主要な穀物では世界トップクラスの生産国である。とはいえ、まさかの時に食料援助を頼める同盟国を持っていない。つまり中国が台湾への侵攻に踏み切れば、14億人の胃袋を満たせなくなる恐れがある。

▼なるほど合点がいった。2020年から習近平国家主席が先頭に立って進めてきた、食品の廃棄をなくすキャンペーンである。昨年には「食べ残し禁止法」が成立し、大食い動画の配信もできなくなった。文字通り国民の「箸の上げ下ろし」にまで目を光らせる異例の規制は、習氏の危機感の表れといえる。

▼食料のなかでも、当局がとりわけ神経をとがらせているのが、大豆の確保である。大豆からは、中華料理に欠かせない油が採れ、搾りかすは国民食といえるブタの餌となる。中国は約4千年前から東北部で栽培してきた原産国である。世界に普及したのは、20世紀に入ってからだ。にもかかわらず、現在では消費量の8割以上を輸入に頼る。しかもブラジルに続いて、米国が輸入元の2位に入っているから、悩ましい。

▼もっとも日本の「食料安全保障」の危うさは、はるかに深刻である。豆腐や醬油(しょうゆ)、みそなど、日本の食文化を支える大豆の自給率はわずか6%にすぎない。