9月6日 コラム 産経抄

2014年のソチ冬季五輪で、開催国のロシアは33個のメダルを獲得した。2年後、米ニューヨーク・タイムズ紙に衝撃的な記事が掲載される。メダリスト15人を含めた数十人がドーピング、つまり禁止薬物を使用していたというのだ。

▼選手には3種類の薬物を混合したものが与えられ、現地の検査所ではスポーツ省の指示により、100近い尿検体がすり替えられた。不正の手口を詳細かつ具体的に証言したのが、ロシアの検査機関の所長だったグリゴリー・ロドチェンコフ氏だった。

▼世界反ドーピング機関(WADA)は早速調査に乗り出し、プーチン政権による組織的なドーピング違反と隠蔽(いんぺい)の実態を明らかにした。ロドチェンコフ氏は当時すでに、米国に亡命を果たしていたが、2人の側近はロシア国内で死亡している。

▼こちらも命がけの告発である。ロシアのウクライナ侵略に従軍していた元兵士が先月、インターネット上で戦争に反対する手記を発表した。まともな食料もないまま戦場に駆り出され、現地で略奪を繰り返すなどの蛮行を暴露していた。

▼作者のパベル・フィラティエフ氏(34)は、クリミア半島を拠点とする部隊に所属していた。砲撃で負傷し、治療中に執筆した。今月に入ってフランスに逃走していたことがわかる。国営テレビに出演したフィラティエフ氏は、多数の民間人を殺害した残虐行為について語った。

▼手記の公表により、帰国すれば禁錮15年の刑が科される恐れがあるという。いや、むしろ命の危険が迫っている。これまでロシア当局から「裏切り者」の烙印(らくいん)を押された多くの人たちが、悲惨な死を遂げてきた。先週には、戦争を批判した石油会社の会長の不可解な事故死が報じられたばかりである。