9月7日 コラム 産経抄

英国の新首相に就任したトラス氏(ロイター) 「鉄の女」と名付けたのは旧ソ連の軍事ジャーナリストだった。「ソ連は世界を支配しようとしている。バターよりも大砲を優先する」。英保守党が野党だった1976年1月に、党首のマーガレット・サッチャー氏が行った演説である。ソ連国防省の機関紙には早速、サッチャー批判の論文が掲載された。その中で使われたのが最初である。

▼首相の座にあった11年半の間に英国病と呼ばれた経済の低迷を打破し、レーガン米大統領とともに東西冷戦を終結に導いた。確かに、強烈な個性とリーダーシップにぴったりの異名だった。本人も気に入っていたらしい。

▼英国の与党保守党の党首選で、エリザベス・トラス外相(47)が勝利した。サッチャー、メイ両元首相に続く3人目の女性首相となる。トラス氏はウクライナを侵略しているロシアに対する強硬な発言などから「新たな鉄の女」と評されてきた。

▼トラス氏自身、サッチャー氏を強く意識してきたようだ。昨年11月にバルト三国のエストニアを訪問した際には駐留英軍の戦車に乗ってみせた。サッチャー氏もかつて、ゴーグルにスカーフのいでたちで戦車に試乗して話題になったものだ。服装やハンドバッグの趣味も似せているとも、指摘された。

▼もっとも育ったのは、労働党支持の家庭である。幼いころ母親とともに反核のデモに参加して「サッチャー首相辞めろ」と叫んだこともあるらしい。子供時代のエピソードはさておき、もともとEU残留派だったトラス氏は、離脱支持へとあっさり転向した。実際は「鉄の女」とは違うタイプの政治家に見える。

▼いずれにせよ、新首相の前には課題が山積みである。トラス氏ならではのあだ名が付いたとき、首相としての評価が定まる。