8月25日 産経抄

1999年9月、モスクワなどで4件のアパート爆破テロが起き、300人近くが死亡した。ロシア当局は、南部チェチェン共和国の独立武装勢力の犯行と断じた。当時首相だったプーチン氏は、報復としてチェチェン攻撃に踏み切って勝利を収める。世論の圧倒的な支持を得て、翌年春に大統領の座をつかむきっかけとなった。

▼もっとも、ロシア連邦保安局(FSB)の元諜報員のリトビネンコ氏が、一連の事件は「FSBの自作自演」と暴露する。チェチェン侵攻の口実を作るためだというのだ。FSBはプーチン氏の出身母体でもある。リトビネンコ氏は英国に亡命するが、2006年に放射性物質「ポロニウム210」で毒殺された。真相はいまだ闇の中にある。

▼今月20日にモスクワ郊外で起きた乗用車の爆破事件も謎だらけだ。死亡したのは、民族主義的思想家ドゥーギン氏(60)の娘で、ジャーナリストのダリア氏(29)である。二人ともプーチン氏のウクライナ侵略を強く支持してきた。

▼すでに国内の反プーチン派組織が、犯行声明を出している。ロシア政府の関与を疑う説もある。軍事作戦が当初の予測に反して長期化したことで、戦果の乏しさに失望した愛国主義が今後過熱するのを恐れて芽を摘んだ、との見方だ。

▼FSBは、ウクライナの情報機関の犯行だ、と決めつける。実行犯のウクライナ人女性が娘を連れて先月ロシア入りし、乗用車に爆弾を仕掛けた後、エストニアに出国したと発表した。ウクライナ政府は自国の関与を否定しており、実際その可能性は低い。

▼理由は簡単だ。ウクライナにとって、なんの得にもならない。むしろロシア軍のさらなる残虐行為の正当化に利用されてしまう、と警戒を強めているはずだ。