産経抄 9月19日

「慶典」とは、なかなか古風な単語を使うものである。「めでたい儀式」という意味だが、記者生活36年余の抄子は、一度も記事で使ったことがない。スマホに「けいてん」と打ち込んでもこの漢字は出てこない。用例はと見れば、吉田茂元首相の「回想十年」に、「宮中の慶典、国家の儀式(略)などに列席の栄に浴するとすれば」とある。

▼祝典より、もっとおめでたい式典に限って使うようで、吉田元首相以来、55年ぶりに行われる「国葬」の2日後に、東京オペラシティなどでにぎにぎしく挙行される。その名も「日中国交正常化50周年記念慶典」だ。

▼半世紀前の9月29日、田中角栄、周恩来の日中両国首相が、共同声明に署名し、国交が正常化された。その日を大いに祝おうと、最高顧問には、福田康夫元首相、二階俊博元自民党幹事長、唐家?元中国国務委員らおなじみの顔がずらりと並ぶ。

▼楽しみなのは、元首相の挨拶だ。何しろ福田家の人々は代々、アジアを大事にし、スピーチがうまい。父親の赳夫元首相も国交正常化から2年後に、ある「慶典」に招かれ、「アジアに偉大な宗教指導者現る。その名は文鮮明である」とやって万雷の拍手を受けた。

▼慶典には、羽生結弦さんもゲストとして登場し、トヨタやニトリなど日中の有名企業50社が、スポンサーとして名を連ねている。でも、3社が匿名になっている。

▼あれ? こんな意義ある式典を応援するのに、なぜ名前を隠すのだろう。世の中には、五輪スポンサーになるため賄賂まで贈っている企業もあるというのに。抄子も親中派の端くれとして列席の栄に浴したかったが、招待状はいまだ来ていない。東京オペラシティで、「おめでたい」皆さんの顔を一目見たいものだ。