9月21日 コラム 産経抄

<結婚よりも私は「夫婦」が好きだった とくにしずかな夫婦が好きだった>。「しずかな夫婦」は、詩人の天野忠さんが苦労の多かった夫婦の歩みをユーモラスに振り返った作品だ。
▼この詩のファンだった作家の城山三郎さんがある日、天野夫妻がどんな家に住んでいたのか確かめたくて、わざわざ京都まで出かけた。その顚末(てんまつ)をつづったエッセーは、こんなつぶやきで結ばれている。「『しずかな夫婦』でありさえすれば、もう何も要らぬのでは」。城山さんは数カ月前、愛妻に先立たれたばかりだった。
▼しずかな夫婦となる手立てはなかったのだろうか。ともに高学歴の2人は大手製薬会社の入社同期で、平成22年に結婚する。長男に恵まれ、経済的にも不自由はなかったものの、やがて関係が悪化した。東京都大田区の自宅マンションで今年1月、妻が急死する。

▼妻のスマートフォンには、夫と口論する画像が残されていた。今月16日になって、警視庁は夫の吉田佳右(けいすけ)容疑者(40)を殺人容疑で逮捕した。妻が飲む酒に有毒のメタノールを混入した疑いである。薬の研究開発に携わってきた吉田容疑者は、メタノールを入手できる立場にあった。

▼NHKで19日に放映された「ふたりのディスタンス『爆笑問題 太田光と妻・光代』」を興味深く見た。人気芸人の太田さんと事務所社長でもある光代さんとの間には、普段まったく会話がない。自宅で太田さんは部屋にこもり、光代さんはロボット相手の晩酌だ。温泉旅行に出かけても気まずいムードだったが、ある出来事をきっかけに2人はカードゲームで盛り上がる。
▼いろいろな夫婦があっていい。ケンカしても、別れることになっても仕方がない。なぜ、人殺しに至るのか。