9月22日

ロシアの国民的歌手、アーラ・プガチョワさんは11年前、人気司会者のマクシム・ガルキンさんとモスクワのレストランで結婚式を挙げた。62歳の花嫁は5回目、35歳の新郎は初婚だった。 

▼今年2月にロシアがウクライナに軍事侵略を始めると、ガルキンさんは「戦争反対」を訴えた。身の危険を感じて家族とともにイスラエルへ出国し、プガチョワさんは先月に夫を残して帰国していた。 

▼ロシア当局が今月16日、ガルキンさんを欧米などのスパイを意味する「外国のエージェント(代理人)」に指定した。プガチョワさんは夫が着せられた汚名に黙っていない。「本物の愛国者である夫は、若者が死んでいくのを終わらせたいと願っているだけだ」。ソーシャルメディアを通じて、痛烈な政権批判を繰り広げた。 

▼「いったい、ブレジネフって誰だい? プガチョワ時代のちっぽけな政治家さ」。ソ連時代に流行(はや)ったアネクドート(小話)である。今もその存在感は大きく、当局も簡単に手を出せまい。 

▼プガチョワさんの代表曲といえば、「百万本のバラ」である。「百万本のバラの花を あなたにあなたにあなたにあげる」。歌手の加藤登紀子さんの訳詞で、日本人にもなじみ深い。ロシアの詩人による歌詞は、女優に恋をしたジョージアの貧しい画家をモデルにしている。 

▼実は原曲は、バルト三国の一つラトビアの音楽家が、祖国の愛国詩人の作品をもとに作り上げた「マーラが与えた人生」である。ラトビアがまだソ連の共和国だった1981年に発表された。「マーラ(女神)は娘(ラトビア)に生を与えたけれど、幸せはあげ忘れた」。隣接する大国に翻弄され続けてきた悲劇を歌う原曲に、今こそ光を当てるべきであろう。