十数年前に出張で大手のホテルチェーンに宿泊し、朝食会場に行ったら、早朝だったせいか、フロアのスタッフは二人だけで、二人ともアジア系の若い女性で外国人でした。おそらくアルバイトかパートでしょう。たぶん日本人を雇うよりも時給が安くて済むか、早朝のシフトでも文句言わないんでしょうね。私は一人だったのですが、受け付けにいたスタッフがちょっと微妙な日本語で「何名様ですか?」と訊いてきました。私は「あぁ、一人です」と答えると普通に「こちらにどうぞ」とテーブルに案内されました。私は「やっぱりこういう所でも働いている外国人も増えたな」ぐらいにしか思わなかったのですが、そのやりとりを見ていたもうひとりのスタッフ(明らかにこちら先輩というか、リーダーらしかった)が「今の日本語、ちょっとダメ」と注意したのです。
私自身も何が「ダメ」だったのかわからなかったので、二人の会話をちょっと注意して聞いてみました(日本語で会話していたので、二人はおそらく別の国から来ていて、日本語が共通言語だったのだと思います)。注意されたスタッフも「マニュアル通りにしたと思います。何がダメですか?」と聞き返していました。するとリーダー格のスタッフは「見ただけでひとりだとわかるお客様にわざわざ『何名様ですか?』と訊くのはちょっと失礼。そういう時は『お一人様ですか?』と訊く方が自然な日本語。マニュアルだけではダメ」と指導していました。正直、驚きました。確かに時には「見ればわかるだろ!」みたいな態度を取る人もいるかもしれませんが、今時そんな細かい接客まで気を配りませんよ。

そう指導されたスタッフ、本当に目を丸くして「そうですか、日本語ではそういうのが自然ですか、知りませんでした。次からはそうします!」と言うと、私の他にまだ客が居なかったので、フロアの隅に行って、小さな声で「お一人様ですか?お一人様ですか?」と練習を始めました。それを笑顔で見守るリーダーさん。いや~、衝撃でしたね、その仕事に対する真剣さ。

この話を私のところのアルバイトにしたら、一斉に「無~理~、私たちそんなことまで考えな~い、てか、そんな真面目にやれないし~。もうそんな人たちに絶対勝てないねぇ~」という予想通りのリアクション。もう日本にはハングリー精神に裏打ちされた真剣さなんて期待できないのかもしれません。