6月24日 産経抄

安倍晋三元首相らに危害を加える具体的かつ現実的な危険性が切迫し…。令和元年夏の参院選で安倍氏の街頭演説中に「辞めろ」「帰れ」などと大声でやじを飛ばし、北海道警に排除された男女が道に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、札幌高裁は22日、男性への賠償命令を取り消した。当然だといえる。

▼男性は警官の警告を無視して大声での連呼をやめず、演説車両に向かって突然走り出すなどしていたのである。道警の対応を違法として賠償を命じた昨年3月の1審判決には、強い危惧を抱いた。ただでさえ「人権」を持ち出されると及び腰になりがちな警察を、さらに萎縮させると。

▼元年7月13日の小欄は、同じ参院選で東京都中野区での安倍氏の街頭演説中に起きた事件の顚末(てんまつ)を紹介している。やはり「安倍辞めろ」と騒いでいた一団が、女性に「演説が聞こえない」と注意されても静まらず、果てに女性のスマートフォンを取り上げ、地面にたたきつけて壊したのだった。

▼女性はその場にいた警官に、何度か演説妨害への対処を求めたにもかかわらず、無視されていた。後に警察側は、女性にこんな釈明をした。「注意すると人権問題だとか差別だとか言われるから、強力に排除はできない」

▼民主主義の原点といえる街頭演説の邪魔をする「こんな人たち」を排除すると、当事者やマスコミから批判されるから動きにくい。やむを得ず排除すると、今度は裁判で断罪される。これでは警察も立つ瀬があるまい。1審判決は、演説妨害の過激化や警察警備の弱体化を予感させた。

▼裁判官には、一つの判決が社会に与える影響の大きさを拳拳服膺(けんけんふくよう)してもらいたい。安倍氏が街頭演説中に凶弾に倒れて、もう1年が経(た)とうとしている。