7月5日 産経抄

オーストリアの首都ウィーンといえば「音楽の都」のイメージが強い。現在は国際機関が軒を並べる街として知られる。国際原子力機関(IAEA)もその一つだ。原子力の平和利用のために1957年に設立された。

▼福島第1原子力発電所の事故が世界に衝撃を与えた時、組織のトップにいた天野之弥事務局長はすぐに現地に向かった。以来IAEAは日本政府と緊密に連携しながら、原子力の安全強化に努めてきた。天野氏は惜しくも任期途中で病に倒れ、現在のグロッシ事務局長に後事が託された。

▼目下の最大の課題は、廃炉作業の支障となる処理水の海洋放出である。原発の建屋内にある「汚染水」を多核種除去設備(ALPS)によって浄化する、それがすなわち処理だ。ただ現在の技術では放射性物質のトリチウムだけは除ききれない。世界中の原発でもトリチウムを含んだ水を海に流してきた。

▼グロッシ事務局長は昨日、岸田文雄首相に面会した。IAEAが海洋放出について2年かけて精査した結果、妥当だとする報告書を手渡した。韓国内では、日本がIAEAに多額の献金をしたとのフェイクニュースが出回っているらしい。さすがに信じる人は少ないだろう。「太平洋は日本の下水道ではない」などといやがらせを続けてきた中国もIAEAの有力な加盟国である。報告書の内容を完全否定するわけにはいかないはずだ。

▼あとは風評被害を防ぐために全力を尽くすしかない。その意味で東京電力がライブで配信しているヒラメとアワビの映像はいいアイデアと感心する。処理水が含まれた海水で飼育されており、処理水の安全性を何より証明している。

▼ただヒラメより活発な愛嬌(あいきょう)のある魚の方が視聴者は増えるのではないか。