「一国の人々を抹殺するための最初の段階は、その記憶を失わせることである」。11日に死去したチェコスロバキア出身の作家、ミラン・クンデラ氏の短編集『笑いと忘却の書』には、こんな一節がある。この書で体制を批判したとして、クンデラ氏は同国から国籍を剝奪されただけに重い。

▼実際、連合国軍総司令部(GHQ)は占領下の日本で、新憲法の押し付けや日本らしさがない教育基本法の制定、公的機関による神道支援を禁じた神道指令など矢継ぎ早に手を打った。東京裁判や西洋による植民地支配への批判は厳しく検閲され、発禁になるか削られた。

▼残念ながら、その先棒を担いだのがマスコミだった。全国紙はGHQに指示されるまま、一斉に「日本悪玉史観」を国民に植え付ける「太平洋戦争史」を連載し、NHKはゴールデンタイムのラジオ番組「真相はこうだ」で、南京大虐殺などは真実だと演出して流し続けた。

▼NHKには、そうした「戦後レジーム」の残滓(ざんし)がまだ根を張っているのか。長崎市の端島(通称・軍艦島)を取り上げた番組「緑なき島」で使用され、戦時中に朝鮮半島出身者が過酷な労働を強いられた姿を示すと流布された炭坑内の映像は、実は戦後の昭和30年製であることが判明した。にもかかわらず、NHKは訂正もしていない。

▼14日の小紙政治面に掲載の奥原慎平記者の記事によると、この映像は韓国のテレビ局の番組20本で放映され、デジタル教科書や歴史館でも使われているという。端島に関する日本人の記憶を改変し、失わせるだけでなく、他国に間違った歴史を広めたことになる。

▼NHKの責任は重大である。ただちに訂正・検証番組を放映するとともに、日韓の関係者に謝罪すべきだろう。