「政治が風評の矢面に立て」。月刊『正論』9月号で、福島県在住のジャーナリスト、林智裕さんがこう訴える記事に膝を打った。東電福島第1原発の処理水の海洋放出の件である。林さんは、放出先送りは「処分できないほど危険だから」といった新たな風評被害を招くと指摘する。

▼7月には、国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が来日し、海洋放出の安全性と妥当性を改めて強調した。これらはかねて明らかなのに、放出の決断が遅れてきたのは、政治が処理水を「汚染水」と呼ぶ活動家らによる「風評加害」と対決するのを避けてきたからだろう。

▼「(処理水を)関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」。政府と東電が平成27年、福島県漁業協同組合連合会に文書で伝えたことも活動家らは利用してきた。林さんによると、「関係者」の範囲は恣意(しい)的に拡大され、「理解」は「同意」へとすり替えられた。 

▼立憲民主党の泉健太代表は7月21日の記者会見で「漁協が納得することが大事だ。漁協として一つの結論に至るのであれば、次のステップに入ることはあり得る」と述べた。だが、中国などが国際問題化を狙う中で漁協に下駄(げた)を預けてどうするのか。

▼平成14年10月、北朝鮮による拉致被害者5人の帰国時のことを思い出す。5人は本心ではそのまま日本に留(とど)まりたかったが、北朝鮮にいる家族が人質となっていてそう言えない。そこで、当時の安倍晋三官房副長官らが「政府の責任」で5人は戻さないと決めた。 

▼「5人を返さないと政府が決めたのは間違いだ。政府が決める必要はない」。こう反発したのが、立民(当時は民主党)の岡田克也幹事長だった。現在の政府と漁協の立場と重ならないか。