「ちゃんと襖(ふすま)を閉めなさい」。作家の曽野綾子さんは幼いころよく母親に叱られていた。平成7年に社会貢献財団「日本船舶振興会(現日本財団)」の2代目会長に就任すると、昔の習慣通りに会長室のドアを開けっ放しにする。

▼当時の財団といえば、幹部の収賄容疑での逮捕と内紛というダブルパンチに見舞われていた。マスコミから厳しい批判を浴びるなか、初代会長の笹川良一氏が死去する。組織刷新を任された曽野さんはとにかく風通しをよくして誰でも気楽に入ってこられるようにした。黒い噂というものはドアが閉まっているところに立つものだからだ(『日本財団9年半の日々』)

▼アメリカンフットボール部の悪質タックル問題に始まり、元理事長の脱税事件など、日本大学の一連の不祥事は記憶に新しい。約1年前から理事長として立て直しに取り組んできたのが、日大OGでもある作家の林真理子さんである。

▼今回のアメフト部の違法薬物事件について最初の報道があった先週、林さんはテレビカメラの前で明確に否定していた。部員はその後、大麻と覚醒剤の所持の疑いで警視庁に逮捕される。実はすでに7月初旬、大学側は部員が住む寮から植物片や錠剤を発見していた。果たして理事長室のドアは開かれていたのか。少なくとも現場から重要な情報が理事長に伝わっていなかった。

▼曽野さんは会長になると当時の笹川陽平理事長(現会長)に打ち明けた。作家だから自然とこちらのことを書きたくなると思う、と。笹川理事長は「ご自由に」と応じた。

▼組織再生の鍵を握っているのは情報公開である。本日会見に臨む林さんが、見たこと聞いたことをはばかりなく活字にできる。そんな大学にしてほしい。