7月2日(火)朝日新聞朝刊・天声人語

この数日、沖縄のことを考えている。思い起こすのは1995年、米兵による少女暴行事件への抗議に、8万人が集まった
宜野湾市での県民集会である。地元の高校3年生、仲村清子さんの演説は、何とも凜としていた

基地の街に暮らす不条理を訴えながら、彼女は被害者のプライバシーにも言及した。「少女の心」を思うと、事件を公にして
「抗議するべきだったのだろうか」。米兵への憤りと、被害者の心情をおもんばかる気持ち。その葛藤の重さがズシリと
伝わってきた

おそらく多くの沖縄の人が、怒りとともに複雑な感情を持ったのだろう。同じ集会で大田昌秀知事も「申し訳ない」と犯罪を
防げなかった謝罪から話を始めている

あれから29年。いまも悲劇は続く。先週、少女への性的暴行事件で、米兵が3月に起訴されていたことが明らかになった。
5月にも別の事件で米兵が捕まっていた

理解できないのは、いずれも事件も政府が県に伝えていなかったことだ。悲惨な事件が繰り返されてきた沖縄の歴史を思えば、
県は何も知らなくてよいとはなるまい。官房長官は「被害者のプライバシー」を言うが、沖縄の人の懊悩に満ちた言葉に比べ、
何と薄っぺらい響きがすることよ

そもそも政府は、少女たちの「心」にどれだけ向き合ってきたのか。有名な言葉だけれども、いま再び、記したい。仲村さんの
演説の結びを。「私たちに静かな沖縄を返してください。軍隊のない、悲劇のない、平和な島を返してください」