>>230 (続き)

手がかり探して

女性は「東亜」と名付けたシバイヌを、家族同然に育てていた。10代前半だった43年秋、東亜の「供出」を求める
回覧板が届いた。

指定された日に、警察署に連れてくるよう記してあった。当日、母は貴重な米で小豆ご飯を作り、東亜に与えた。
警察署に連れて行くと、係官は名簿を見ながら東亜を取り上げ、おりに入れた。東亜は遊びの延長のように跳ね回ったが、
女性が泣いているのを見て不安そうにほえ始めた。その後、東亜がどうなったかは分からないという。

「軍用犬でもない犬が、どうして……」

井上さんは理由を調べようと図書館に行ったが、資料は見つからず、知人もそんな話は聞いたことがないという。
何か手がかりがあればと最寄りの警察署を訪ねたが「そんなことあるわけない」と一蹴された。

(続く)