3月11日(水)朝日新聞東京版朝刊文化面

作家・姫野カオルコ   アホそうな名前 ウェルウェル

新聞を開いて、姫野カオルコという名前を目にしたあなたは、

「アホそうな名前」

と感じたと思う。正しい。若き日の私と同じだ。若き日に、私は考えたのである。

「自分の名前をカタカナにすると、新聞には書けない四文字に似る。オカルト、コミカルにも
似る。姫は性交や女性器の隠語でもあるから、それが臭い(カオル)のだ、わははは」

と。小説や随筆を書くという行為は、世間からすれば、こういうことであろう。家族親族知人
から疎まれ、こちらも向こうを避け、一人だけで生きて行くわい、という若い潔癖であった。
自分と同じ誕生日である宮沢賢治の詩の一節、

『ぎちぎちと鳴る汚い掌を おれはこれからもつことになる』

と唱えた。青く、志高き日が、今は老年の私にもあったのである。

(続く)