7月3日

 定規の目盛りは0から始まる。測りたい場所の端を0に合わせれば、長さを教えてくれる。「今我々が心置きなく物差しを使えるのも、0のおかげなのだ」。小川洋子さんの小説『博士の愛した数式』に、そんなセリフがあった。

▼0という数を発見したのは古代インドの数学者とされる。三角関数の研究もかの国で大きく進展した。インドの子供は「九九」でなく「20の段」まで掛け算を習う。「インド人=計算力が高い」などといわれるのも、そんな事情が手伝っていよう。

▼間違えて「計算高い」と書くと別の意味になるのだが、国際社会でのインドの立ち回りを見ると、こちらの方が収まりのいいような。日米豪印の協力枠組み「クアッド」の一角としてインド太平洋における中国の横暴を牽制(けんせい)する一方で、ロシアとの軍事的、経済的な関係も深い。

▼モディ首相とトランプ米大統領の関係も親疎の間を行き来し、インド外交の行き先を読みづらくしている。その中で行われた高市早苗首相とモディ氏の日印首脳会談である。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の実現に向け、経済や安全保障で一層の連携を確かめた。

▼対中抑止という日印共通の課題もさることながら、歴史にも思いを巡らせたい。先の大戦で日本は、インドを植民地支配していた英国と戦い、それが戦後のインド独立の実現につながった。そのような強いつながりがあることも忘れてはなるまい。

▼中国の横紙破りを許さぬ上で、日印の役目は重い。モディ氏にはまず、物差しの始点を日米やクアッドの側に合わせてもらわねば。日本からも不断の働きかけが必要だろう。どう立ち回るのが最善か、高市氏は頭の中で難しい計算式を解いているに違いない。