8月25日

 国連難民高等弁務官を務めていた故緒方貞子さんは、当時の国連事務総長との軋轢(あつれき)まで取り沙汰された騒動を引き起こしたことがある。

▼1990年代のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の最中、セルビア人勢力の圧迫に苦しむイスラム教徒側が、援助物資の受け取りをボイコットした。自らの窮状を国際社会にアピールするためだ。緒方さんは人道援助が政治的駆け引きに利用されたと激怒して、援助の一時停止を発表したのだ。

▼国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長もまた猛烈に怒っている。赤根さんら幹部2人に制裁を科したトランプ米政権に対してである。制裁により赤根さんはクレジットカードやグーグル、アマゾンのサービスも使えなくなる。これではとても通常の生活は送れない。

▼ICC非加盟国の米国は、ICCがアフガニスタンでの米兵の「戦争犯罪」捜査を認めたことを「権限の乱用」としている。赤根さんは小紙の電話インタビューで「制裁は独立した司法への侵害だ」と訴えた。高市早苗首相は制裁について「大変残念に思う」と述べた。米国への批判を控えたものの、水面下では制裁の撤回を強く求めていると、信じたい。

▼著書の『戦争犯罪と闘う』によると、検察官として順調にキャリアを積んできた赤根さんがICC入りしたきっかけは、上司の言葉だった。「あなたが行ってくれれば、若い世代が後に続いてくれるはずだ」。

▼日本政府は国連など国際機関で働く日本人職員の拡大に努めてきた。一部の国際機関には中国の影響力が強まっている、との懸念も広がっている。緒方さんや赤根さんに憧れて国際舞台を目指す若者は、いざという時に政府が本気で助けてくれるのか、注視しているはずだ。