9月9日

 掛け算の九九はよく知られている。実は割り算にも九九があって、そろばんを習った人なら指先と耳が覚えているかもしれない。たとえば「二進一十(にしんいんじゅう)」と「三進一十」は、それぞれ「2÷2=1」「3÷3=1」を表している。

▼中には2や3で割り切れない数もある。「二進も三進も」はすっきりと割れず扱いに困る数を指し、「にっちもさっちも」と読む。そこから「窮地に追い込まれるなどして身動きできない状態」の意味に転じた、と聞けばうなずく人も多いだろう。

▼先週から列島を悩ませる豪雨は、身動きもままならぬ苦境を各地の人々に強いている。福島県ではアンダーパスで車が水没し、1人が亡くなった。同様の事故で犠牲者を出した8月中旬の千葉豪雨は、まだ記憶に新しい。来た道を引き返す選択肢を、はかりにかけてほしかった。

▼千葉県大網白里市では、前の豪雨で水害に遭ったばかりのラーメン店が、再び水に浸(つ)かっている。だめになった厨房(ちゅうぼう)の機器を入れ替え、常連客らに背中を押され、今月5日に営業を再開したばかりだったという。再起の出はなをくじく空の仕打ちに、かける言葉が見つからない。

▼店それぞれに守り続ける味があり、なじみの客がいる。その結びつきの上に成り立つのが地域というものだろう。災害から逃れるため、住み慣れた土地から見知らぬ土地へ―と簡単に割り切れるほど、人と人、人と土地の縁は浅くないはずである。

▼進むことも退(ひ)くこともかなわず、かさを増す水におびえながら被害に遭った方々を思うと、キーボードをたたく指が先に進まない。雨はいつまで、狭い国土を狙い撃ちするような降り方をするのか。同じ地域に、続けて。空がこれほど恨みに思えることもない。