10月14日

 黄金を求めて南米に渡ったスペインが、ある農作物を欧州に持ち帰ったのは16世紀後半だった。土に埋めるだけで、まるまると太る。人々は当初、「悪魔の魔術」と恐れたものの、どんな気候でも育てやすく、元手もかからない。

▼ジャガイモである。やがて「貧者のパン」と呼ばれ、栽培地の広がりをみせた。恩恵を受けたアイルランドは、18世紀後半に約400万人だった人口が数十年間で倍に膨れ上がったという。その反動もきつかった。いわゆる「ジャガイモ飢饉(ききん)」だ。

▼1840年代に米国からジャガイモの疫病が入り込むと、不作によって100万人が餓死し、200万人が米国や英国へ逃れたといわれる。アイルランド系の第35代米大統領ケネディが、その子孫であることは知られている。土の中の実りが歴史を動かしたといえなくもない。

▼むろん、日本との縁も浅くはない。北海道開拓の歴史は、ジャガイモ栽培を抜きには語れない。主産地たる北海道がいま気をもんでいるのは、トランプ米政権が要望を強める生鮮ジャガイモの輸入解禁である。輸入はこれまで、ポテトチップスなどへの加工用に限定されてきた。

▼米国産が持ち込む恐れのあるセンチュウの一種は、駆除が極めて難しい。店頭に並ぶなどして国内に侵入すれば日本農業への打撃になりかねない。農産物が外交や通商で取り上げられるのは日米の常とはいえ、政府には安全第一の判断を望みたい。

▼「地味」という言葉は「じみ」と読めば「目立たぬこと」、「ちみ」と読めば「土壌のよしあし」になる。土の中は日の当たらぬ「じみ」な場所だが、「ちみ」は実りを左右する。日米の検疫協議は加速の気配を見せていると聞く。実りある議論はできるのか。