■考古学の分野からの裏づけも

ゾンビ・ウイルスは、人口が密集する都市が多かったマヤ文明であっという間に蔓延し、文明に終焉をもたらした――確かに斬新な仮説だ。

だが、ゾンビ・ウイルス説につながる可能性を研究をしている人は他にもいる。アメリカのアトランタにあるエモリー大学考古学部のリブ・ニルソン・スタッツ博士の専門は、埋葬考古学という耳慣れない分野だ。

スタッツ博士は「ニュー・サイエンティスト」誌2012年8月号に掲載された、石器時代の変わった風習に関する特集記事に注目している。記事を書いたのは、バルセロナに本拠を置くスペイン国立調査委員会所属の考古学者、ファン・ホセ・イバニェス博士だ。

博士はシリアの石器時代の遺跡で発掘調査を行い、奇妙な状態の遺骸を大量に発見した。頭蓋骨が完全に粉砕され、胴体と切り離された遺骸である。しかも、埋葬後一定の時間が経過してから頭蓋骨を砕き、首と胴体を切り離した痕跡が認められる。

そこでスタッツ博士は、次のような解釈を提示した。

「生ける者の世界に対する脅威は、生ける者たち自身が排除しなければならない。そのための手段として選ばれたのが、だれの目にも明らかな、一番わかりやすいアイデンティティーである顔を奪うことだったのだろう。

頭を切り落とすことで、生者の世界と死者の世界の境界線を明確に示したのだ。頭を頭蓋骨ごと潰つぶし、境界線を越えられないようにした例もある」

古代の墓地では、首が切り離されただけでなく、胴体部分が大きな岩で押さえつけられた状態で埋葬されている遺骸が発見されることも珍しくない。口の中に岩が入れられた頭蓋骨が見つかることもある。こうした儀式的行動の意味は何だったのか。

「ヒストリック・ミステリーズ・ドット・コム」というウェブサイトを運営管理するキンバリー・リンは、次のように語る。

「墓から甦る死者という概念は、何千年も前から存在しつづけている。世界中の文明にアンデッドに関する迷信や伝説が残っており、そういう概念が今日でも受け容れられていることには何の疑いもない」

『ザ・ゾンビ・サバイバル・ガイド』(2003年)、および『ザ・ゾンビ・サバイバル・ガイド:レコーデッド・アタックス』(2009年)の著者マックス・ブルックスは、考古学関連の専門誌のインタビューに対し、次のように語っている。

「ゾンビが実在した証拠を求める考古学者が捜すべきものは、頭をはねられた死体、あるいは脳みそが取り除かれた形跡がある頭蓋骨である。リビング・デッドを止めるには、このふたつしかないからだ」

この仮説の信憑性を高める物証はあるのか?

前述のスタッツ博士は次のようにいう。

「考古学的記録、特に新石器時代の中東地域に関するものには、亡くなった人を埋め、組織が腐敗した後に掘り返し、頭蓋骨だけ外したという事実が記されている。漆喰いで塗り固め、その上に新しい顔が描かれることもあった。ゾンビ=リビング・デッドという概念は、未知ではあるが確実に――ある意味経験則的に――存在がわかっているものに対する恐れを表すものではなかっただろうか」