ASDの原因は興奮物質グルタミン酸の受容体が少ないからだった
公開日2026.01.10 21:00:38 SATURDAY
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日本社会でよく使われる「空気を読む」「相手の気持ちを察する」といった能力は、私たちの社会的な交流において非常に重要な役割を果たします。
しかし、周囲の状況や他者の意図を読み取ることに困難を覚える人は珍しくなく、特に自閉スペクトラム症(ASD)の人においては、この問題が顕著に見られると言われています。
ASDは社会的な交流の難しさや、限定的かつ強い興味、反復的な動作や話し方などを特徴とする神経発達上の特性です。 専門家たちは長年、「なぜASDを持つ人々の脳は、定型発達の人々とは異なる働きをするのか」という根本的な疑問を抱いてきました。
この謎を解く鍵の一つとして注目されているのが、脳内の神経細胞間で交わされる情報伝達のバランスです。
脳の情報伝達には、神経活動を促す「アクセル」役(興奮性シグナル)と、それを抑える「ブレーキ」役(抑制性シグナル)があり、この二つの精密なバランスが脳の適切な機能に不可欠であるという仮説があります。
今回、米国のイェール大学医学部(Yale School of Medicine:YSM)の研究チームは、この長年の疑問に対し、具体的な分子レベルで違いを特定する画期的な発見をしました。
チームは、ASDを持つ成人の脳内では、興奮性の情報伝達を担う最も一般的な物質であるグルタミン酸の特定の受容体(mGlu5受容体)が、定型発達者と比べて少ないことを発見しました。
主任研究者である児童精神医学・心理学の専門家ジェームズ・マクパートランド博士(James McPartland PhD)は、この発見を「ASDの理解を進める上で、計測可能な臨床的に意味のある重要な違いを脳内に発見した」と表現しており、これまで行動観察に頼ってきたASDの診察においても、客観的な指標や測定値を用いて診断の正確性を高められる可能性に言及しています。
この研究の詳細は、精神医学の学術誌『The American Journal of Psychiatry』2026年1月号に掲載されています。
この情報処理の鍵を握るのが、神経細胞が互いに情報交換する際の「興奮(アクセル)」と「抑制(ブレーキ)」のバランスです。
専門家たちは長年、自閉スペクトラム症(ASD)の根本的な原因が、この興奮と抑制のバランス不均衡にあるのではないかと考えてきました。
そこで注目されていたのがグルタミン酸です。脳の神経細胞に「発火せよ」という信号を送り、神経伝達の最も主要な「アクセル」役を果たすのが、グルタミン酸という神経伝達物質です。ASDが抱える問題の背景には、このグルタミン酸の活動システムに不均衡があるためではないか? という仮説が有力視されていたのです。
ただ、それを裏付ける具体的な分子レベルの証拠は不足していました。
イェール大学医学部の研究チームは、この疑問に答えるために、16名のASDの成人と、同数の定型発達の成人を対象に、最先端の画像診断技術を組み合わせた実験を行いました。
彼らが用いたのは、脳の構造を見るMRI(磁気共鳴画像法)と、脳が分子レベルでどのように働いているかを調べるPETスキャン(陽電子放出断層撮影)です。 特にPETスキャンは、グルタミン酸が作用するシステムの「分子地図」を精密に描くのに非常に強力なツールとして機能しました。
そして、この分子地図を詳しく見てみると、決定的な違いが明らかになりました。
ASDの参加者の脳全体において、グルタミン酸を受け取る特定の受容体の数が少ないことが判明したのです。 これは代謝型グルタミン酸受容体5型(mGlu5受容体)と呼ばれるもので、神経細胞が興奮性の信号をキャッチするために非常に重要な役割を果たしています。