2023年、地球に衝突した強力な粒子の発生源は「原始ブラックホール」の大爆発だった可能性
公開: 2026-02-16 20:30
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 捕らえられた粒子の種類は「ニュートリノ」だった。
 物質を構成する最小単位の一つである「ニュートリノ」は、原子よりもはるかに小さく、電気を帯びていない極小の素粒子である。
 最大の物理的な特徴は、他の物質とほとんど反応しないことだ。
 壁や地球、さらには私たちの体さえも、まるで何もないかのようにスルスルと通り抜けてしまう。
 実際、今この瞬間も1秒間に何兆個ものニュートリノが人間の体を通り抜けているが、あまりに反応しないため誰もそれを感じることはできない。
 この「捕まえどころのなさ」から、科学者たちはニュートリノを「幽霊粒子」と呼んでいる。
 今回観測されたニュートリノは、全長27kmもの巨大な地下トンネルの中で粒子を加速させる人類最強の実験装置「大型ハドロン衝突型加速器」が生み出せる限界の10万倍という、想像を絶するパワーを持っていた。
 今回の研究にたずわった、アメリカ、マサチューセッツ大学アマースト校の素粒子物理学者であるアンドレア・タム博士は、既知の宇宙のどこを探しても、これほどのエネルギーを放てる場所は見当たらないと指摘している。
 地中海の施設「KM3NeT」では明確な信号が検出されたが、南極にある同様の施設「IceCube」では、何も記録されていなかった。
 IceCubeは地中海の装置と同等の能力を持つ巨大な観測網だが、100分の1の力を持つ信号さえ一度も検知していなかった事実は大きな矛盾となった。
 同じ宇宙からの飛来物でありながら、特定の場所にだけ反応が出る現象は極めて不可解だ。
 研究チームは、観測データに生じた不一致こそが謎を解く手がかりになると考えた。
 宇宙全体が一定にニュートリノの雨にさらされているのであれば、世界中の装置が等しく反応するはずだ。
 一部の装置だけに信号を残した事実は、発生源が極めて特殊な条件で生まれたことを示唆している。
 研究チームは、謎のニュートリノの正体が「原始ブラックホール」の大爆発であるという新説を立てた。
 通常のブラックホールは、寿命を迎えた巨大な星が押しつぶされることで誕生する。
 星の崩壊で生まれる通常のブラックホールに対し、原始ブラックホールは宇宙誕生直後のビッグバンの衝撃で生まれたとされる仮説上の天体だ。
 天才物理学者スティーブン・ホーキング博士は、ブラックホールがエネルギーを放出しながら少しずつ蒸発し、最終的に大爆発を起こして消滅すると予言した。
 原始ブラックホールは星に比べれば非常に軽量だが、極めて高い密度を持つ。
 ブラックホールは質量が軽いほど高温になり、激しくエネルギーを放出する性質がある。
 研究チームは、宇宙初期から存在していた原始ブラックホールが、ついに寿命を迎えて爆発した際のエネルギーが、今回の超強力なニュートリノを地球へ送り出した可能性があると推測した。
約80万個の銀河を含むジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の画像と暗黒物質の地図を合成した図。青で示された暗黒物質の位置と分布は、通常の物質に対するその重力の影響に基づいて研究者によって特定された。Credit: NASA/JPL-Caltech/STScI/J. DePasquale/A. Pagan
未知の粒子ダーク電子が引き起こす最後の大爆発
 最新の理論における最大の鍵は、未知の物質である「ダーク電子」の存在だ。
 ダーク電子は、私たちが知っている電子よりもはるかに重い、いわば電子の重い親戚のような仮説上の素粒子である。
 研究チームのモデルでは、ブラックホールがダーク電子を抱え込むことで、通常の蒸発プロセスが一時的に抑えられると考えている。
 しかし、ある限界を超えると重いダーク電子が急激に漏れ出し、わずか数秒間で凄まじい爆発を引き起こす。
 ダーク電子による爆発が起きた場合、放出されるニュートリノのエネルギーは非常に狭い範囲に限定される。
 特定のエネルギーだけが放たれる仕組みであれば、地中海の施設だけに強力なニュートリノが衝突し、南極の装置には反応しなかったという矛盾を説明できる。
 論文筆頭著者のマイケル・ベイカー教授は、今回のモデルが宇宙の謎であるダークマター(暗黒物質)の正体を解き明かす鍵になると期待を寄せている。