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光速を超える「暗闇」の観測に成功:相対性理論を破らず50年前の予測を実証した極限の電子顕微鏡技術
2026年3月30日
超高速・超高分解能システムが捉えたフェムト秒の世界
極限まで速度を落としたハイブリッド波の内部であっても、特異点の生成や消滅イベントはフェムト秒単位という途方もない短時間で進行していく。この目にもとまらぬ現象を連続的な動態として捉えるため、チームはTechnionのElectron Microscopy Centerにおいて超高速透過型電子顕微鏡を用いた独自の測定システムを構築した。
システムの核心は、電子線の干渉を用いてサンプルの電磁場位相を抽出するFree-electron Ramsey imaging技術の導入にある。研究チームは近赤外線のレーザーパルスを3つの異なる経路に分割して実験を制御した。第一の経路は紫外線に変換されて電子顕微鏡の電子パルスを放出するために用いられ、第二の経路はサンプル到達前の電子線の位相を事前に変調するために使われる。第三の経路は中赤外線に変換されて六方晶窒化ホウ素のサンプルを励起し、フォノンポラリトンの波束を発生させる。
電子線の照射とサンプルを励起する光パルスのタイミングをアト秒レベルで精密に調整することで、研究チームは空間分解能20ナノメートルという驚異的な精度を達成した。これはポラリトンの波長である約630ナノメートルの約30分の一に相当する。さらに時間分解能は3フェムト秒に達し、これは波の1周期である23.3フェムト秒を8分割して記録できることを意味する。研究チームはこのシステムを駆使し、21×21マイクロメートルの視野において800フェムト秒という長時間にわたり、285枚もの位相分解フレームを連続取得することに成功した。これは光の波が激しく振動する様相を、空間的にも時間的にも極限まで拡大してコマ撮りした前人未到の映像記録である。
フェムト秒レーザーを3経路に分割し、電子顕微鏡(UTEM)と組み合わせて位相と群ダイナミクスを記録する仕組み(図a)を解説している。また、空間分解能20ナノメートル、時間分解能3フェムト秒という極限の精度で、特異点がサブサイクル(光の1周期未満の時間)で生成・消滅する様子(図c)や、21×21マイクロメートルの広視野で800フェムト秒以上にわたり連続撮影された波の時空間ダイナミクスの全容(図d)が視覚的に示されている。
個々の特異点の動きを追跡した結果は、Berryらが提唱した理論的予言を完璧になぞるものであった。正と負のトポロジカル電荷を持つ2つの特異点が互いに引き寄せられるように接近していくと、対消滅を迎える直前のわずか9フェムト秒間に軌跡が急激なカーブを描き、極端な加速を見せたのである。算定されたその瞬間の相対速度は真空中における光の速度の壁を明確に突破していた。
全体の統計的分析はさらに驚くべき真実を明らかにした。観測された特異点の平均速度は秒速約3.12×10の8乗メートルであり、これは真空中の光速の約1.04倍に相当する。さらに、システム内で観測された全特異点のうち29パーセントが光速を超えて移動していたことが確認された。六方晶窒化ホウ素がもたらす極端に遅い群速度の効果によって、特異点の超光速イベントは稀な例外ではなく、集団内のごくありふれた現象として立ち現れたのである。
また、研究チームは全ての特異点ペアの距離と速度の同時分布を導き出すことにも成功した。得られた特異点の速度分布は、通常の液体中の粒子が従うマクスウェル=ジュットナー分布とは根本的に異なり、極端な高速度域に長く伸びる「ヘビーテール」を持つことが判明した。特異点は静的な空間配置においては粒子のように振る舞うが、その動的な振る舞いにおいては明確に粒子のアナロジーから逸脱し、波の干渉としての普遍的な極限の性質を持っていることが証明されたのである。
この発見が音波や流体の流れ、さらには超伝導体のような複雑な系に至るまで、あらゆる種類の波に共通して適用される自然界の普遍的な法則を解き明かし
特異点同士が消滅の直前に急激に加速する現象自体は、超流動体における量子渦や、超伝導体における磁束量子、流体力学における渦輪の衝突などでも断片的に観察されてきた。それらが極限の速度に達し得ることをこれほど高い時空間分解能で視覚的に捉え、厳密な統計的相関関数として定量化したのは本研究が世界で初めてである。ランダムな波の干渉が生み出す位相特異点の力学は、物理学のほぼ全域に通底する普遍的なメカニズムであることが明らかになった。