【精神病のフリして入院】アメリカ全土を震撼させた「ローゼンハン実験」とは?
2025.01.08
https://nazology.kusuguru.co.jp/archives/168190
 前略
しかし精神疾患の診断は、患者の訴え(主観的な報告)や行動観察、問診などに大きく依存しており、通常の身体の病気のように血液検査や画像診断で問題を明らかにすることは出来ません。
特に70年代はまだ精神疾患に対する知見も不足しており、医師の経験や偏見によるバイアスの影響を受けやすい状況にありました。
 中略
重犯罪者が精神病と認められると「責任能力なし」と見なされ、罪が軽くなることがあります。
犯罪者が精神病を偽って、精神科医を騙すことができれば、自分の罪も減刑できてしまうわけです。
そこで精神科医には確かな診断能力が要求されます。
 中略
ここでは精神疾患のない至って健康な一般成人8名(男性5名、女性3名、うち男性1名はローゼンハン本人)で実験を行いました。
協力者は大学院生や心理学者、画家や主婦など様々な背景を持つ人たちであり、ローゼンハンは彼らをアメリカ各地に点在する別々の精神病院に送り込みました。
協力者には事前に幻聴があるフリをするよう伝えており、担当医には「ドスンという音が聞こえる」とか「『空虚だ』という声がする」とだけ話すように指示しています。
本名と職業を偽る以外は医師の質問にすべて正直に答え、幻聴の他には何も異常がないことを示しました。
その結果、驚くべきことに、8名全員の疑似患者が「精神障害の疑いあり」として入院が許可されたのです。
具体的には7名が統合失調症、1名が躁うつ病と診断されました。
疑似患者たちには軽い幻聴症状しか起こっていない(本当は幻聴すら起こっていないが)にも関わらず、精神科医たちは重い精神疾患の診断を下したのです。
 中略
入院後すぐに、疑似患者たちは「幻聴がすっかりなくなった」と担当医や看護師たちに伝えました。
完全に健康であることを示すため、積極的に看護師たちの手伝いをしたり、医師のすることを逐一メモしたりしています。
ところが医師や看護師たちはそうした行動すらも「妄想性の精神疾患の症状の一つである」として、薬の服用を強制され続けました。
ただこうなることもローゼンハンは予測していたので、疑似患者たちには「薬を渡されたら飲むフリをしてトイレに捨ててください」と指示しています。
医師と看護師は誰も疑似患者の演技を見破ることはできませんでしたが、不思議なことに、彼らの正体に気づいた人たちがいました。
それは何を隠そう、同じ病院に入院していた本物の精神病患者たちです。
彼らは疑似患者たちに対して「病院を調べにきた研究者か何かでしょう?」と見事にその正体を言い当てました。
8名が送られた精神病院で、合計35名の精神病患者が8名の演技に気づいたとのちに報告されています。
 中略
ローゼンハンの実験にキレたのが、当の精神科医たちです。
彼らは「事前に何も知らされていないのに、勝手に実験をするとは卑怯だ!」と反論し、「ちゃんと見破ってやるから、うちで試してみろ!」と挑戦状を叩きつけます。
これに対してローゼンハンは「ではこれから3カ月の間に1名以上の疑似患者を送るからよろしく」と返答します。
 中略
挑戦状を叩きつけた精神科医の病院では、その後3カ月の間に193名の新規患者が訪れています。
そして精神科医はそのうち41名を疑似患者の疑いありとし、最終的に19名を「ローゼンハンが送り込んだ刺客だ!」と判断しました。
 中略
なんとローゼンハンはただの1人も疑似患者を送り込んでおらず、精神科医が「ニセモノだ」と診断した19名は全員本物の精神疾患に悩む人たちだったのです。
この結果から、当時の精神科医たちがいかに主観的で不正確な診断を下していたかが明るみになりました。
中略
ローゼンハンの実験を受けて、精神疾患の診断基準は大きく変更され、現在では精度の高いものになっていると言われています。