>>95の意味は下記から理解できる

あらゆるものになる可能性を秘めた「無」──零点エネルギーの謎
2026.04.21

どんな箱の中身も完全に空にすることはできない。なぜか? 何もないところにも「エネルギー」があるからだ。
目の前にある箱を空っぽにしたいと想像してみよう。本当に何もない空っぽにしたい。目に見えるものすべてを取り出し、気体も吸い出し、少しSFチックになるが、暗黒物質のような目に見えない物質もすべて排除する。量子力学の観点からすれば、箱の中には何が残っているだろうか?
これは引っかけ問題に聞こえるかもしれない。そして量子力学では、答えもまた引っかけであることが多い。箱の中にはまだエネルギーが満ちており、どれだけ空にしようとしても、エネルギー量はほとんど変わらないのだ。
この避けがたい残留エネルギーは、基底状態エネルギーあるいは零点エネルギーと呼ばれている。これには基本的にふたつの形態がある。ひとつは、この箱の例のように電磁場などの「場」に関係するもので、もうひとつは原子や分子のような個々の「物体」に関係するものだ。
場の振動を抑えることはできても、その存在の痕跡をすべて消し去ることはできない。また、原子や分子は、絶対零度に限りなく近づけたとしてもエネルギーを保持し続ける。いずれの場合も、根底にある物理学は同じだ。
零点エネルギーは、分子内の電場にとらわれた原子のように、少なくとも部分的に閉じ込められているあらゆる物質構造や物体に必ず生じる。この状況は、谷底に落ちて静止したボールにたとえられる。ボールの全エネルギーは、(位置に関連する)ポテンシャルエネルギーと(運動に関連する)運動エネルギーの和で求められる。両方をゼロにするには、位置と速度の両方に正確な値を与えなければならないが、それはハイゼンベルクの不確定性原理によって禁じられている。
零点エネルギーの存在がより深いレベルで何を意味するかは、量子力学のどの解釈を採用するかによって異なる。ただひとつ確実に言えるのは、多数の粒子を最もエネルギーの低い状態に置き、その位置や速度を測定すると、観測される値にばらつきが生じるということだ。
エネルギーを奪われているにもかかわらず、粒子はまるで揺れ動いているかのように見える。量子力学の解釈によっては、実際に揺れているとみなされる。だが別の解釈では、その動きのように見えるものは古典物理学時代から続く誤解にすぎず、実際にそこで何が起きているのかを直感的に描写する方法は存在しないとされる。
2025年、ドイツ・ハンブルク郊外の欧州X線自由電子レーザー施設(E-XFEL)の研究チームが論文を発表した。研究者らは11個の原子からなる有機分子「ヨードピリジン」を絶対零度近くまで冷やし、レーザーパルスで原子結合を切断した。すると、解放された原子の動きに相関関係が見つかった。
つまり、ヨードピリジン分子は冷却状態にありながらも振動していたのだ。「それを見つけることは実験の目的ではありませんでした」と、同施設の実験物理学者レベッカ・ボルは言う。「要するに、たまたま見つかったのです」
だが、これは重力にはあてはまらない。早くも46年の時点で、ヴォルフガング・パウリが、無限あるいは少なくとも膨大な量の零点エネルギーが、宇宙を吹き飛ばすほど強力な重力場を生み出すはずだと気づいていた。
量子物理学において、真空の零点エネルギーは答えの見つからない難題であり、箱を完全に空にできない理由でもある。だが、それだけではない。何もないはずの場所に何かがあるのではなく、あらゆるものになりうる可能性を秘めた「無」がそこに存在している。
「真空の興味深いところは、すべての場が、したがってすべての粒子が、何らかのかたちで表現されていることです」とミロンニは言う。電子が1個も存在していないにもかかわらず、真空には「電子性」が宿っている。真空の零点エネルギーとは、わたしたちがまだ発見していないものも含めた、あらゆる形態の物質がもたらす複合的な効果だと言える。