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電子顕微鏡の歴史は、試料を透過した電子をレンズで結像し、原子の並びを可視化する技術の洗練の連続であった。走査型透過電子顕微鏡(STEM)などの発展により、特定の原子の位置をピコメートル(1兆分の1メートル)単位で特定する境地に到達している。しかし、そこには長年見過ごされてきた決定的な死角が潜んでいた。それは「奥行き」である。
厚みのある試料に電子ビームを照射すると、上層の原子と下層の原子の情報が干渉し合い、最終的に1枚の平面的な画像へと押し潰されてしまう。これは、分厚いガラスブロックの中に封じ込められた無数のホログラムを、正面からの1枚の写真だけで解読しようとするような無謀な試みである。規則正しい完全結晶であれば、奥まで同じ配列が続くため推測は容易だ。だが、リラクサー強誘電体のように深さ方向にも化学的な乱れが広がる物質では、投影による平均化が致命的な情報の喪失を招く。立体的な分極の揺らぎは相殺され、真の姿はノイズの中に消え去ってしまうのだ。
この物理的な限界を計算の力で突破したのが、多スライス電子タイコグラフィ(MEP)である。タイコグラフィとは、試料に照射した電子波が散乱して生じる回折パターンの重なりを連続的に記録し、位相回復アルゴリズムと呼ばれる強力な計算処理を用いて、電子が通過した経路のポテンシャル(電位)を逆算する技術である。膨大な計算資源を要求するこの手法は、近年のアルゴリズムの進化と演算処理能力の向上によって、ようやく実用レベルでの3D解析を可能にした。